あけましておめでとうございます 〜帯状疱疹ワクチン対象の方は早めにご検討を〜
あけましておめでとうございます。新しい年を迎え、皆さまが健やかに一年を過ごされますことを、心よりお祈り申し上げます。
さて新年最初のブログでは、ぜひ知っておいていただきたい「高齢者帯状疱疹ワクチンの定期接種」についてお話しします。2025年度から帯状疱疹ワクチンは定期接種の対象となっており、これまで任意接種だった頃と比べて、費用面の負担が軽くなっています。基本の対象者は「年度内に65歳になる方」ですが、令和7年度から令和11年度までの5年間は経過措置が設けられており、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳以上の特定年齢に該当する方も定期接種の対象となります。ただし、この定期接種は生涯で一度きり、しかも「その年度限り」である点が非常に重要です。今年度を逃してしまうと、5年後に再び対象になることはありませんので、該当される方はぜひ早めのご検討をおすすめします。
帯状疱疹ワクチンには現在2種類があり、生ワクチンとシングリックスがあります。生ワクチンは1回の接種で完了する一方、シングリックスは2か月の間隔をあけて2回接種が必要です。シングリックスは1回あたりの接種費用が約12,000円と高額ではありますが、その分、帯状疱疹の発症予防効果や、効果が続く期間はいずれも生ワクチンを大きく上回ることが分かっています。特に高齢になるほど帯状疱疹やその後遺症である帯状疱疹後神経痛のリスクが高まるため、費用面で問題がなければ、より効果の高いシングリックスを選択されることをおすすめしています。
これまで当院のブログでは、帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹そのものを予防するだけでなく、認知症の発症リスクを下げる可能性があるという報告についてもご紹介してきました。そして今回、また注目すべき新しい研究が発表されました。帯状疱疹ワクチンが、認知症の「発症予防」にとどまらず、「進行を抑える可能性」や「生命予後を改善する可能性」にまで関与しているかもしれない、という内容です。
今回ご紹介する論文は、PubMedに掲載されている以下の研究です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41338191/
この研究では、帯状疱疹ワクチンが認知症の発症リスクだけでなく、軽度認知障害(MCI)の発症、さらにすでに認知症と診断されている方の死亡(認知症が原因となった死亡や全死亡)にどのような影響を与えるかを調べています。研究の舞台は英国ウェールズで、実際の定期接種制度を利用した「自然実験」と呼ばれる手法が用いられています。
2013年にウェールズで導入された帯状疱疹生ワクチン(Zostavax)の定期接種制度では、2013年9月1日時点で79歳の人は1年間のみ接種対象となり、80歳以上の人は生涯にわたって対象外とされていました。この制度上の年齢の区切りを利用し、「誕生日が少し違うだけでワクチンを受けられた人」と「受けられなかった人」を比較することで、ワクチンの影響を評価しています。対象は1925年から1942年生まれで、当時ウェールズに住んでいた約30万人であり、最大9年間にわたって追跡されています。
まず、認知症の診断がなかった方を対象に、軽度認知障害(MCI)の新規発症について調べたところ、9年間で約7.3%の方がMCIと診断されました。しかし、年齢の関係でワクチン接種が可能だった人では、MCIの発症が9年間で1.5ポイント少なく、実際に接種した効果に換算すると、約3.1ポイントの減少が見られました。これは、帯状疱疹ワクチンが認知機能の低下をある程度抑えている可能性を示す結果といえます。
次に、すでに認知症と診断されていた方を対象にした解析では、9年間で約半数の方が認知症を原因として亡くなっていましたが、ワクチン接種が可能だった人では認知症による死亡が8.5ポイント少なく、実際の接種効果に換算すると約29.5ポイントの減少が推定されました。さらに、全死亡についても約6.5ポイントの減少が認められており、帯状疱疹ワクチンが生命予後にも良い影響を与えている可能性が示唆されています。
興味深いことに、これらの効果は女性で特に強く認められ、男性では明確な差が出ていませんでした。女性では、軽度認知障害の発症が実際の接種で約5.1ポイント減少し、認知症による死亡は実に50%以上減少すると推定されています。この男女差については、今後さらなる研究が必要とされています。
なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症にまで影響を及ぼすのかについては、まだ完全には解明されていませんが、帯状疱疹の原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルスが体内で再活性化することで慢性的な炎症を引き起こし、脳内のアミロイドやタウ蛋白の蓄積、脳血管障害などにつながる可能性が考えられています。ワクチンによってこのウイルスの再活性化が抑えられることで、結果として認知症の発症や進行が抑制されているのではないかと推測されています。また、高齢者ワクチンに共通するとされる「病原体に特異的でない免疫の調整作用」が、認知症に対しても良い方向に働いている可能性も指摘されています。
今回の研究は生ワクチンを用いた結果ではありますが、現在定期接種で広く用いられているシングリックスは、より強い免疫反応を引き起こすことが分かっています。そのため、同様、あるいはそれ以上の効果が期待できる可能性もあり、今後の研究結果が待たれます。
最後に、定期接種の実際のスケジュールについて気を付けるべきポイントがあります。シングリックスを定期接種として受ける場合、2回目は1回目から2か月後に接種する必要がありますが、もし2回目の接種が3月31日を過ぎてしまうと、公費助成の対象外となり、自己負担額が大きく増えてしまうという点です。そのため、シングリックスを希望される方は、1月の早い時期、遅くとも1月中頃までに1回目を接種しておくことをおすすめします。
帯状疱疹ワクチンは、痛みの強い帯状疱疹を防ぐだけでなく、将来の認知症や健康寿命にも関係する可能性があるワクチンです。対象となっている方は、この機会をぜひ大切にしていただきたいと思います。
