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前立腺肥大症の最新治療——2023年ガイドライン改訂 泌尿器科学会総会

[2026.05.23]

 今年の第113回日本泌尿器科学会総会は京都で行われました。京都での学会は魅力ですが、費用もかかるし人がいっぱいのイメージ。すべてのセッションが聞けるわけではないのでやはりオンライン参加がベストです。今回もオンラインでの講演を聴講することにしました。今日は2023年に改定された『男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン』についてです。

前立腺肥大症(BPH)は、中高年男性に広くみられる進行性の疾患です。頻尿・夜間頻尿・尿の出が悪いといった「下部尿路症状(LUTS)」は、加齢とともに有病率が上昇し、70代では約6割の男性がこれらの症状を抱えているとされています。近年の国内調査では、20歳以上の男女を含めた全体での有病率が約78%にのぼるという報告もあり、決して高齢者だけの問題ではないことが明らかになってきました。当院でもこの疾患で通院している人が一番多いかもしれません。

2023年には日本泌尿器科学会と米国泌尿器科学会(AUA)の双方でガイドラインが改訂され、薬物療法・手術療法の両面にわたって大きなアップデートが行われました。今回の日本泌尿器科学会総会の卒後教育プログラムでは、その最新動向が解説されていました。

 

治療の第一歩は内服薬から——長期的課題も

前立腺肥大症の初期治療は、だいたいの症例で内服薬から始まります。α1遮断薬(タムスロシン、シロドシンなど)が最も広く使われており、次いで5α還元酵素阻害薬(5ARI・デュタステリド)、そして近年急速に普及しているPDE5阻害薬(タダラフィル)が続きます。国内の処方動向を分析した研究では、タダラフィルの処方数が2014年から2021年の間に約2.8倍に増加したことが示されており、治療選択肢の多様化が着実に進んでいることがわかります。効果は確実にあり、手術をせずQOLが改善するため非常に有用です。

ただ、薬物治療にも課題はあります。α1遮断薬単剤では2年以上の経過観察ができている患者でも5年後には約半数が治療を中断しており、治療を中断した患者は手術に移行するリスクが約2.8倍も高くなるというデータがあります。薬を飲み続けることの難しさは、そのまま手術リスクの上昇につながっています。

 

さらに注目すべきは、長期的な薬物使用に伴うリスクです。α1遮断薬については認知症リスクの上昇を示す報告がある一方で、影響なしとする研究も存在し、現時点では結論が出ていません。抗コリン薬は記憶・注意機能などの認知機能低下と関連することが複数の研究で指摘されており、特に高齢者への処方には慎重さが求められます。5ARIについては、うつ症状や自傷行為リスクの上昇、性機能障害(勃起障害・性欲低下・射精障害)、さらには血糖上昇や脂質異常などの代謝異常との関連も報告されています。認知症リスクについては使用開始から2年間のみ上昇するという研究結果もあり、神経ステロイドの低下を介した中枢への影響が示唆されています。これらの副作用はすべての患者に生じるわけではありませんが、長期使用を前提とする薬である以上、処方する側もされる側もそのリスクに関しては正確な知識を持っておく必要がありそうです。

 

PDE5阻害薬——前立腺だけじゃない広い治療可能性

今回の講演で特に目についたのが、PDE5阻害薬の多様な治療効果についてです。タダラフィルといえば「ED(勃起障害)の薬」というイメージもありますが、その作用機序を理解すると、多くの疾患に効果を発揮することもりかいできます。

PDE(ホスホジエステラーゼ)は体内に11種類存在する酵素群で、細胞内の情報伝達物質であるcAMPやcGMPを分解する役割を担っています。このcGMPは、血管の抵抗・心臓の働き・消化管の動き・免疫反応・炎症・神経の可塑性など、非常に広範な生理機能を調節する重要な物質です。PDE5はこのcGMPを分解する酵素であり、それを阻害するタダラフィルはcGMPの濃度を高め、さまざまな組織で平滑筋の弛緩や血管拡張、抗炎症作用などを引き起こします。

前立腺・膀胱における効果としては、NO–cGMP経路の活性化による排尿抵抗の低下、間質細胞の増殖抑制による前立腺肥大の進行抑制、炎症や線維化の軽減が挙げられます。しかしその効果はそれだけにとどまりません。肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対しては保険適用もある確立した治療薬であり、レイノー病(寒冷刺激で手足の血管が収縮する病気)、高山病、糖尿病性腎症、さらにはアルツハイマー病への効果を示す研究まで報告されています。COVID-19関連の肺障害への応用可能性、抗腫瘍作用、2型糖尿病のインスリン抵抗性改善など、現在も世界中でその可能性が研究されており、今後の医療においてPDE5阻害薬が担う役割はさらに広がっていくと考えられます。自分の友人もアンチエイジングの一つとして内服していたりします。

2023年改訂ガイドラインでも、α1遮断薬とPDE5阻害薬の併用療法が単独療法より排尿症状・最大尿流量の両面で優れていることが明記されました。また、過活動膀胱を合併する前立腺肥大症患者に対して、タダラフィル単独では効果不十分な症例へのミラベグロン(β3作動薬)との併用療法を支持するエビデンスも報告されています。

 

手術の新時代——低侵襲治療が高齢者に

薬物治療で改善が乏しい場合や、尿閉・腎機能障害などの合併症がある場合は手術が検討されます。従来の標準術式はTURP(経尿道的前立腺切除術)でしたが、2023年の改訂では低侵襲手術(MIST)の選択肢が明確に示されました。

経尿道的前立腺吊上げ術(UroLift)は、インプラントで肥大した前立腺を物理的に牽引して尿道を広げる方法で、全身麻酔不要、出血リスクが低く、性機能への影響も最小限です。経尿道的水蒸気治療(Rezum)は、103℃の水蒸気を前立腺組織に噴霧して壊死・縮小させる方法で、やはり麻酔なしでも施行可能で、抗血栓薬を休薬できない患者にも適応できます。両術式とも2022年に日本で保険適用となり、手術時間はいずれも15分前後と短く、入院期間も数日程度です。

さらにAquablation(アクアアブレーション)は、ロボット制御と超音波画像を組み合わせ、高速の生理食塩水ジェットで前立腺組織を自動切除する次世代技術です。熱を使わないため射精機能が温存されやすく、80〜150mLという大きな前立腺にも対応できる点が特徴です。5年間の追跡データでも良好な成績が確認されており、2023年改訂ガイドラインに新たに追加されました。

 

2023年改訂の重要なメッセージの一つは「従来は外科治療が困難とされていた高齢者や全身状態不良の患者に対しても、低侵襲手術の適用を積極的に考慮し、効果の乏しい薬物療法や尿道カテーテルの漫然とした継続は避けるべき」という点です。

BPHの薬物治療は初期治療の基本ですが、中断率が高く、長期的には治療変更や手術移行が避けられないケースも多いです。近年は高齢化社会を背景に、身体的リスクの高い症例に対する治療選択肢として、MIST(低侵襲外科治療)の重要性が増しています。UroLiftやRezumなどのMISTは、性機能温存や短期入院などの利点を活かし、ハイリスク症例においても現実的な治療選択肢となり得ます。超高齢社会の日本において、治療をあきらめていた患者さんにとっての大きな希望となりえるでしょう。

前立腺肥大症の治療は、薬物・手術ともに進化しています。症状で悩んでいる方も、治療の選択に迷っている方も、まずは泌尿器科専門医に相談してみましょう。

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