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慢性前立腺炎と腸内細菌

[2025.03.16]

慢性前立腺炎は比較的若い男性に特有の疾患で、主な症状として下腹部~会陰部、精巣(陰嚢部)、尿道の痛みもしくは不快感があります。座位でいると症状が悪化することもあるようです。尿道の痛みがあっても、検尿では異常がなく、細菌感染による痛みではないと思われています。別名慢性骨盤痛症候群ともいわれ、慢性前立腺炎/慢性骨盤疼痛症候群(chronic prostatitis/chronic pelvic pain syndrome: CP/CPPS)と言われています。

1999年に米国国立衛生研究所NIHが提唱した分類ではカテゴリIIIにあたる疾患です。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10422990/

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18164907/

 

海外での20~74歳男性の調査では868名中84名(9.7%)がCP/CPPSの症状があることがわかりました。この研究では前立腺炎症状のある患者の平均年齢は50歳で、症状がない患者の平均年齢は52歳でした。有病率は 50 歳未満の男性では 11.5%、50 歳以上の男性では 8.5% であり、比較的若い方に多いことがわかります。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11176483/

 

この疾患では尿中に細菌が検出されることがないと考えてよいですが、前立腺生検してみると細菌のDNA が検出されることもあると報告されています。まあ、こういった研究は過激なのであまりやられることはないでしょう。基本的に良性疾患なので、あまり研究が進まない疾患であることは事実ですが、そのため治療方法も確実なものはなく治療に難渋することも多いです。

 

近年腸内細菌叢が数々の疾患にかかわっていることが報告されていますが、最近慢性前立腺炎モデルを用いて、腸内細菌叢との関連を研究した論文がありました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39012524/

 

この研究ではCP/CPPSモデルラットを用いてベルベリン塩酸塩の治療効果を検討しています。ベルベリン塩酸塩とは下痢止め、整腸剤として使われる薬のようです。ベルベリンは腸内有害細菌(赤痢菌、チフス菌、ブドウ球菌、有害大腸菌など)に対して殺菌作用を示す薬剤で、ほかに胆汁分泌作用、腸内細菌叢を正常に保持し、腸管内の病原菌の増殖を抑える作用などがあるようです。

 

この論文ではモデルを使った解析ではベルベリン塩酸塩は前立腺の炎症と酸化ストレスを軽減したと述べています。16SリボソームRNAの塩基配列を利用した腸内微生物叢の分析によって、CP/CPPSラットとコントロールラットの間には明確な違いがあり、なかでもClostridium butyricumが重要な細菌として同定されました。CP/CPPSラットまたはベルベリン塩酸塩で治療したラットから糞便移植を受けた疑似無菌ラットは、炎症性サイトカイン産生、酸化ストレスなどの変化を示し腸内微生物叢は、CP/CPPSの発症における重要な要因であると述べています。

 

腸内細菌と疾患の関連はまだまだ発展途上ですが、今後さらに研究が進んでいくと思われます。ただ、腸内細菌はなかなか変えることができないですし、ベルベリン塩酸塩での治療効果もどのくらい継続するのかまだまだ不明です。

現時点では、慢性前立腺炎の治療としては若年者ではセルニルトンによる治療が中心となります。この薬も内服すればすぐに効果が表れるわけではありませんが、薬剤の抗炎症作用により鎮静化を図っていくのが一般的です。

慢性前立腺炎/慢性骨盤疼痛症候群(chronic prostatitis/chronic pelvic pain syndrome: CP/CPPS)は病因・治療法などまだまだ解明されていないところが多い疾患と言え、今後の研究が待たれるところです。

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