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新型コロナウイルスの遺伝子変異

[2020.08.30]

新型コロナウイルスの感染者は首都圏を中心に、福島県でもまだ増加し続けています。幸いにも今のところ無症状、軽症者がほとんどでなんとかなっていますが、今後も注意が必要です。医療崩壊の危険性が以前より指摘されていましたが、これは重症者の割合によって起こりえることです。重症者=人工呼吸器やECMOを使用せざるをえない患者さんのことで、こういったケースでは、入院が長期になり、ベッドとマンパワーが大きくとられてしまいます。ベッドもスタッフの数も限りが有るのでこういった状況になると非常にコントロールが困難になってきます。

ウイルス感染者は増加傾向に有りますが、人工呼吸器、ECMO使用患者が最も多かった4月26日に比較したら少ない患者数になっていますが、油断できない状況でしょう。

 

https://crisis.ecmonet.jp/

 

 

つい先日Lancetに掲載された論文によると、新型コロナウイルスSARS-CoV-2のオープンリーディングフレーム(ORF)8領域に382ヌクレオチド欠損(Δ382)を認める新型コロナウイルス変異体の感染者は、症状が軽症であるとのことです。

 

https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2820%2931757-8

 

この変異株はシンガポールで2020年の1~2月に検出されていたとのことです。他にバングラデシュ (345 nucleotides)、オーストラリア(138 nucleotides)そしてスペイン (62 nucleotides)でもこの領域の欠損を認めるウイルスが検出されていました。この変異株ではORF8領域(コロナウイルスの遺伝子のひとつ)が翻訳されない=ウイルスのある蛋白が作られないと言う事です。このORF8の遺伝子の役割はまだはっきりしていないようですが、今のところMHC class Iという人の免疫に関する蛋白を抑制するのではないかと考えられているようです。このMHC class Iはウイルス感染細胞と正常細胞を区別するのに重要な蛋白ですので、ウイルスに対する細胞性免疫に大きな影響が出てしまいます。

 

https://www.nature.com/articles/s41577-020-0360-z

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.05.24.111823v1

 

そこで、この論文のデーターですが、Δ382欠損をスクリーニングされた131例中92例(70%)が野生型に感染、10例(8%)が野生型とΔ382変異株の混合感染、29例(22%)がΔ382変異株に感染していました。そして、Δ382変異株に感染していた29例は酸素投与が必要な患者が0例で、野生型では28%(26/92例)であったとのことです。オッズ比0·07 [95% CI 0·00–0·48]です。野生型感染では人工呼吸器は10例(11%)、ICUに入ったのが15例(16%)であるのに対して、Δ382変異株感染例ではいずれも0例、どちらも有意差有りです。

 

もし、これが今でも同じ事が起きているならば、新型コロナウイルス感染のPCRの時にΔ382欠損の有無もPCRで確認し、Δ382欠損型であれば自宅療養、野生型であれば入院という風に分けることも可能かも知れません。遺伝子解析が進んでいますので、このΔ382欠損の割合なども今後出てくるかも知れません。

 

 

ただ、いまウイルス遺伝子は変異速度が24.1塩基変異/ゲノム/年(つまり、1年間で24.1箇所の変異)と予測されており、どのようなウイルスに変化していくのか、研究の継続が必要になってきます。

 

https://www.niid.go.jp/niid/images/research_info/genome-2020_SARS-CoV-MolecularEpidemiology_2.pdf

 

ウイルスにとっては強毒化は、感染により宿主を失ってしまうので不利。願わくば弱毒化の方向に変異が進んで行ってもらえればと思います。

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