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院長ブログ

卵とインフルエンザワクチン(2019.11.06更新)

母校の微生物学の実習では、ウイルスの数を測定する実習をしていました。今もやっているかはわかりませんが。実習はB型インフルエンザウイルスの株のひとつを使っていました。ウイルスを増殖させ、回収したウイルス液を希釈し、培養細胞に加え、プラークをカウントする方法でした。培地は半流動寒天培地を用いるので、培地中からウイルスが拡散せず、cell-to-cellにウイルス感染が広がっていくので、染色すると培養細胞が死滅したところにぽっかり穴が空き、いわゆるプラークが確認できます。このプラーク数をカウントして、希釈倍率からウイルスの数がわかるという実習だったと思います。(下の写真で言えば左側のまるい、いわゆるウェルないのぽつぽつ穴が空いているところが、インフルエンザウイルスが感染したところです。培養細胞は染色されていますが、はがれてしまったところです。右側にはウイルスはいなかったようです。)

 

 

そのとき、B型インフルエンザウイルスの株を増やすのですが、ウイルスを増やすのに鶏卵を使っていました。鶏卵は鶏卵でも、インフルエンザウイルスの増殖のために発育孵化鶏卵を使っていました。学生の実習用にこの発育孵化鶏卵を多く確保するのは、大変だったのではと思います。実習では、その卵を暗室に持ち込んで気室や雛を確認。卵のカラをポピドンヨードで消毒し、釘でぐりぐりと小さな穴を開けました。そしてその孵化鶏卵の尿膜腔にウイルス液を接種です。そのまま湿度60~80%にコントロールした培養室で48時間培養し、ウイルスを増殖させます。そのあと、尿膜腔液を回収しウイルス液としました。

暗室で鶏卵の中の雛を確認しながら進める実習は結構大変で、しかし記憶にのこる実習でした。

 

このように、インフルエンザウイルスのウイルス増殖には発育鶏卵を用いるのですが、インフルエンザウイルスワクチンを作成する過程でも、同様に発育鶏卵を使います。もちろん大量にウイルス粒子が必要ですので、ウイルス液は自動で鶏卵に注入され、大量のウイルス液が作られます。このウイルス液を精製し、インフルエンザウイルス粒子を回収。ウイルスはエーテル処理で不活化すると同時に、脂質であるエンベロープ上のヘマグルチニンHAを回収するというわけです。

 

しかし、このときに微量に卵由来の蛋白が混ざってしまうのではないかと言う懸念が指摘されることとなります。実際に、インフルエンザワクチンを受ける時の予診票を見てみますと、「食物(鶏肉・卵)アレルギーはありませんか。」のような質問が入っている事と思います。これは、卵アレルギーの人が多いことから、この質問が入っていると思われます。

 

しかし、卵アレルギーをきたす卵白由来のオボアルブミンが、インフルエンザワクチンに含まれる量は、日本のワクチンの場合非常に低い値のようです。アナフィラキシーを起こすオボアルブミンの量は600~1200 ng/mlと言われています。では、ワクチンに含まれるオボアルブミンはどの程度かと言えば、0.1未満~0.62 ng/mlと報告されています。アレルギーを起こす量の1000分の1と言う事です。

ヨーロッパのインフルエンザワクチンのなかのオボアルブミンは28 ng/ml ~ 1.1 mg/mlだったと報告も有ります。Pharmeur Sci Notes. 2006 Aug;2006(1):27-9 それと比較したら、日本のワクチンは超優秀であると言うことなのでしょう。

 

もちろん、ワクチンには、保存料など別の物質も含有されているため、絶対に安全と言うわけでは無く、非常に低い確率ですが(140万分の1程度らしい)強いアレルギー反応を起こす危険性はあるでしょう。しかし、現在の所、インフルエンザ予防接種ガイドラインでは、卵加工食品を食べても無症状である児は、鶏卵アレルギーによる重篤な副反応の報告は無いとされています。しかし、卵完全除去中や、アレルギーの既往がある児などは専門施設への紹介が良いとされています。

 

ただ、上記のように孵化鶏卵を用いたワクチン製造法は、鶏卵を準備するには限界が有ります。以前の新型インフルエンザの時のように、緊急にワクチンを作成しなければならないときなどは特にワクチン不足になる事も懸念されます。また、面白いことに卵馴化という現象が有り、これはヒト由来のA/H3N2 亜型のインフルエンザワクチン株およびB型インフルエンザワクチン株を鶏卵で増殖させると、糖鎖付加部位にアミノ酸置換が起こり、HA 蛋白の抗原性に変化が生じ、細胞で分離したウイルスとは抗原性が変わってしまうという現象がみられることがわかっています。そのため卵馴化による抗原性の差異が少ない製造株を探してワクチン株が選定されるように検討されているとのことです。

 

これらの事から現在では細胞培養ワクチンの開発が進められています。細胞を用意しておけば、いつでも短期間に大量のワクチンを製造することが可能となります。培養細胞は-80℃での保存も可能であり、さらに継代培養が可能であるため、いわば無限に増やすことが出来る様になります。海外では進んでいるようですが、日本での実用化も近いかも知れません。

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