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既存の抗ウイルス薬で抗新型コロナウイルス薬になるのはどれなのか

[2020.04.13]

ここ1週間、首都圏では緊急事態宣言が発出され、また、福島県内でも感染例の増加やクラスターの発生が見られるという、慌ただしい日々が続いていました。この混乱が収まるには、やはり有効な薬剤の発見とワクチンの開発しか有りません。ワクチンはある程度の時間がかかるかも知れませんが、薬剤に関しては現在、他疾患に用いられている薬剤を抗新型コロナウイルス薬として使えるか、いわゆるドラッグリポジショニングという観点から進められています。これまで使用されていた薬剤であれば、入手が容易であり、また安全性も確認されていることが多いため、一から薬を見つけていくよりずっと早く臨床応用に持っていく事が出来ます。

先日、忽那賢志先生の記事にある程度の開発状況がまとめられていました。下記はいわゆる抗ウイルス薬であり、現在研究が進められている薬剤の一部ですが、それぞれについては以下の通りになっているようです。

 

1)レムデシビル:元々はエボラ出血熱の治療薬の候補として使用されていた薬剤です。先ず、細胞を用いた実験での有効性が認められていました。

https://www.nature.com/articles/s41422-020-0282-0

 

この論文の図を見ると、レムデシビルとクロロキン(マラリアの薬)が最も低濃度でウイルスを抑制しており、アビガンは比較的高濃度での抑制だったようです。この結果から、レムデシビルとクロロキンが候補に挙がったようです。

そして、New England Journal of Medicine (NEJM)と言う一流の雑誌に、レムデシビルが投与された58例の症例についての報告が掲載されました。

 

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2007016

 

この論文の58例は比較的重症の患者さんのようで、レムデシビルの投与で30例(57%)の方は人工呼吸器を、4例(8%)はECMOを使用中のようです。結果、36例(68%)に効果があり、25例(47%)は退院しましたが、7例(13%)は亡くなっているようです。

さて、この結果が、レムデシビルが新型コロナウイルスに有効であるとされるのかというと、まだでしょう。この論文の場合、重症例だけの投与ですが、正式には投与しない人と比較して投与した方が統計的に有意に改善していると言う結果なら「効果有り」とされます。

 

2)アビガン:アビガンも候補としてあげられていることはよく知られていますが、前出の論文において、同様にin vitroの結果が掲載されています。その結果、レムデシベルが50%の有効性を出すのに0.77μMだったのに対して、アビガンは61.88μMだったと言うことです。詰まり、アビガンはレムデシビル同じくウイルス抑制を達成するには高濃度必要になると言うことです。実際にはアビガンを投与して血中濃度がその濃度以上に上がれば問題ないところではあります。

アビガンを投与した論文ですが、アルビトールと言う薬剤との比較で大きな差は認めていませんでしたが、アビガン群116例において、発熱、咳の減少が有意に短かったようです。アルビトールも抗RNAウイルス薬です。

 

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.17.20037432v3.full.pdf

 

この論文はアビガンとアルビトールの比較と言う事になりますので、無治療の人と比較して改善しているのかどうかは不明です。しかし、両グループも死亡例は認めていないようでした。アルビトールに全く新型コロナウイルスを抑制する効果が無いのであれば、別ですが、この研究ではアビガンはアルビトールと大きな差は無いとしか言えないかも知れません。ただ、アルビトールにも効果があるのであれば、両薬剤とも同等の結果が期待でき、どちらかと言うとアビガンのほうが臨床症状を早く改善すると言えるでしょう。両群とも死亡率が0なのは数が少ないからか、効果があったからか、これだけではまだ判断出来ないです。

 

ただ日本でもアビガンを投与して改善が見られた症例報告は発表されています。

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200409_1.pdf

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200402_1.pdf

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200331_6.pdf

 

症例報告ではなかなかエビデンスとはなり得ないのですが、こういった積み重ねが必ずいつか臨床で役立つ日が来ると信じています。

 

3)カトレラ:抗HIV薬のカトレラもNEJMに論文が出ているようでした。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001282

 

この論文では新型コロナ患者に対してカレトラを14日間内服する群(99人)とカレトラを内服しない群(100人)で比較したところ、臨床的改善が得られるまでの時間に差はなかった、との結果でした。内服しない人と同じ結果であれば、抗ウイルス薬としては効果が無いと言うことになります。

 

この研究のように、抗ウイルス薬が有効である事を示すためには、薬を投与していない群と比較して投与された群で有意に改善していないといけません。安全性の確認や用量の設定なども必要で、ひとつの薬が効果有りと認められるためにはいくつもの関門があるのです。

ちなみにイベルメクチンではまだそのような研究はありません。

 

患者が増えて大変な状況でありながらも、治療研究をデザインし、治療しつつもデーターを集め、解析し、論文として発表する。有効な治療法を見いだそうとする世界中の医療者のその努力には本当に頭が下がる思いです。

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