前立腺肥大症
前立腺は膀胱の出口部で尿道を取り囲む臓器です。膀胱の前に立っている事から前立腺と呼ばれます。前立腺は精液の一部を産生しています。この前立腺が肥大すると尿道を圧迫して、尿の通過障害をきたし、尿が出にくい、細いなどの排尿症状を引き起こすとともに、頻尿、夜間頻尿、残尿感などの蓄尿症状や、切れが悪いなど排尿後症状も起こします。
前立腺肥大症は泌尿器科でもよく遭遇する疾患のひとつです。加齢とともに罹患率が増加し、70歳では70%以上の男性が前立腺肥大を有し、その1/4は治療を必要とする症状を発症します。
前立腺肥大症の危険因子
前立腺肥大のリスクファクターは以下の通りです。
・加齢
・遺伝:親・兄弟が前立腺肥大症であると、リスクは3~6倍になります。
・食事:大豆、穀物などに含まれるイソフラボンは前立腺肥大を抑制します。
・生活習慣病:肥満、高血圧、高血糖などは前立腺肥大との関連が指摘されています。
前立腺肥大症の病態
前立腺は辺縁領域、中心領域、移行領域、前部線維筋性間質からなります。前立腺腺腫の発生は移行領域と尿道周囲組織です。また、前立腺の炎症も肥大結節に関与します。
交感神経系のアドレナリン作動性神経系は前立腺の平滑筋の緊張を調整しています。そのため、アドレナリン受容体をブロックする薬を投与することによって、尿道の緊張が緩み、排尿症状が改善します。また、腺上皮細胞は男性ホルモンの支配を受けています。男性ホルモンを低下させると上皮細胞数は減少します。
前立腺肥大の症状をきたすのは、前立腺肥大による機械的閉塞と、平滑筋の収縮による機能的閉塞によります。前立腺肥大症の主な症状は排尿障害と蓄尿障害で、頻尿、尿意切迫、夜間頻尿、排尿遅延、尿腺途絶などの症状が現れます。
臨床上重要な合併症としては、尿閉、肉眼的血尿、膀胱結石、尿路感染症、腎後性腎不全があり、注意が必要です。
前立腺肥大症の診断
診断には以下の評価を行います。
病歴聴取、症状・QOL評価(国際前立腺症状スコアIPSSなど)、身体所見、尿検査、尿流残尿測定、血清PSA測定、前立腺超音波検査、排尿記録など
超音波検査は低侵襲で、一般的な超音波診断装置で行うことが可能です。
膀胱に尿が貯留した状態で行い、膀胱結石、膀胱腫瘍、膀胱憩室などの有無を確認後、前立腺を観察し、体積を測定。排尿直後に行うことで、残尿測定も可能です。
前立腺体積が31ml以上の方は、30ml以下のかたと比較して国際前立腺症状スコアが悪く、また尿閉となる確率が高くなります。
前立腺肥大症の治療
前立腺肥大症の治療目的は、排尿症状を軽減させ、生活の質を改善することが目的です。そのため内服薬による治療や、薬で十分な効果が得られないときは手術によって尿路閉塞の解除と膀胱機能障害の改善をはかります。
まず、初期の内服治療はアドレナリン受容体α遮断薬を基本とします。前立腺腫大が明らかな場合(30mL以上を目安)は5α還元酵素阻害薬の使用併用を、過活動膀胱症状が
明らかな場合はβ3作動薬や抗コリン薬の併用を考慮します。内服治療での効果が不十分で、残尿量が多い場合や尿閉を繰り返す場合などは、手術治療を考慮します。
治療薬の種類、例
1)α1受容体遮断薬
・プラゾシン(ミニプレス)
・ウラピジル(エブランチル)
・タムスロシン(ハルナール)
・ナフトピジル(フリバス)
・シロドシン(ユリーフ)
2)ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬
・タダラフィル(ザルティア)
3)5α還元酵素阻害薬
・デュタステリド(アボルブ)
5α還元酵素阻害薬は投与により前立腺癌のマーカーであるPSA値が半減することが知られています。5α還元酵素阻害薬内服中のPSA値測定の際はPSA値を2倍にして評価します。
前立腺肥大症で過活動膀胱OABの症状を合併する場合で、α1受容体遮断薬やホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬で症状が残存する場合はβ3作動薬などを併用します
4)β3作動薬
・ベタニス
・ベオーバ