性感染症
性感染症(STI)とは、文字通り性行為によって感染する病気の総称です。「性病」とも呼ばれています。濃厚な接触、粘膜同士の接触によって感染する様式をとります。性器のみならず、口腔に感染する事もあるので注意が必要です。
性感染症の症状として、陰部にできものができた(梅毒、尖圭コンジローマなど)、陰部に潰瘍ができて痛い(性器ヘルペスなど)、排尿時に痛み、違和感がある、尿道から膿が出る(淋菌性尿道炎、クラミジア尿道炎など)の症状がよく見られます。しかし、性感染症の種類によっては、初期の自覚症状がないこともあり、感染に気付かないことも多くあります。感染の機会のしばらく後に症状が出てくることもあるので、油断はできません。STIは性行為の際にコンドームを付けるなど、自身で防ぐことが出来ます。また、出来るだけ不特定多数を相手とした性行為はSTIの機会が増えますので注意しましょう。
性感染症といっても様々であり、下記のような病気があります。性器に病変が出来たり、痛みで自覚される疾患ばかりではないことに注意が必要です。
- 尿道炎(淋菌感染症やクラミジア感染症)
- 精巣上体炎
- 梅毒
- 性器ヘルペスウイルス感染症
- 尖圭コンジローマ
- B型肝炎
- C型肝炎
- HIV
- 陰部ケジラミ
診断と治療
疾患によって異なりますが、淋菌やクラミジアによる尿道炎などでは、先ずは検尿、および淋菌とクラミジアの検査を行い診断し、薬物による治療をおこないます。また近年では、咽頭への感染もよく見られ、疑われる場合にはうがい液を検査に出すこともあります。起因菌が淋菌の場合、経口抗生物質に対する耐性化が進んでいます。その場合、内服療法では症状、検尿所見が改善しません。淋菌の場合、ほぼ確実に効果のある抗生剤はセフトリアキソンとスペクチノマイシンに限られてしまいます。しかし、欧米ではそれらの薬剤にすら耐性を持っている菌も出てきているので要注意です。
梅毒が疑われる場合は、採血検査が必要です。TPHAおよびRPRを定量で調べます。一度感染するとTPHAは低下しないのでRPRによる抗体価が十分下がるまで、ペニシリン系の抗生物質で治療します。
性器ヘルペスは、ウイルス性疾患ですので、通常の抗生物質は効果がありません。ヘルペスウイルスのDNA合成を阻害する薬剤で治療します。
尖圭コンジローマもウイルス疾患です。現在ではイミキモドクリームなどの軟膏による治療も行われております。この軟膏は、免疫の力でいぼを治すものですが、使い方には少し注意が必要です。小さなコンジローマの場合は液体窒素で治療することも可能です。
性感染症は、恥ずかしいからということで、他の疾患に比べて、受診されにくい疾患ですが、感染中の性行為によって、知らず他者に広めてしまうこともあります。遠慮せずに当院にご相談ください。また、パートナーも同時に治療することが重要となります。性行為感染症は昔からピンポン感染と言われるように、パートナーと感染症を移し合うことがあります。治療後も再発する場合など、パートナーの治療がうまくいっていない場合もありますので注意が必要です。
日本泌尿器科学会「こんな症状があったら・尿道口から膿がでる」
各論:主な性感染症について
1)梅毒
梅毒はTreponema pallidum subspecies pallidum(T.p.)による感染症で、主として性行為により感染する性感染症の代表的疾患です。近年増加傾向に有り、大きな問題となっております。2014年に1,671例、2015年には2,697例の報告があり増加傾向は続いております。
一般に、皮膚や粘膜の小さな傷からTreponema pallidumが侵入することによって感染し、血行性に全身に散布されて、さまざまな症状を引き起こす全身性の疾患です。胎児が母体内で胎盤を通して感染したものは先天梅毒といい、それ以外は後天梅毒です。また、皮膚、
粘膜の発疹や臓器梅毒の症状を呈する顕症梅毒のみでなく、症状は認められないにもかかわらず梅毒血清反応が陽性である無症候梅毒もあり、注意が必要です。
梅毒の症状
梅毒は経過した期間によって、症状の出現する場所や内容が異なります。
第一期梅毒: Treponema pallidumに感染後、約3週間経過すると、Treponema pallidum.の侵入部位である感染局所(主に陰部、口唇部、口腔内、肛門等)に小豆大から示指頭大までの硬結、しこりが生じてきます。これを初期硬結とよび、やがて周囲の浸潤が強くなり、硬く盛り上がり、中心に潰瘍を形成して硬性下疳となります。一般的に単発(しこりがひとつだけ)のことが多いですが、まれに数個作ることも有ります。また、通常痛みはない事のほうが多いです。初期硬結や硬性下疳の出現後、やや遅れて両側の鼠径部などの所属リンパ節が、無痛性に硬く腫脹して来ることが有ります。このような一期の症状は放置していても2~ 3週間で自然消退し、約3か月後に2期疹が出現するまでは無症状となります。
梅毒の診断については、この時期に検査を受けることが重要です。まれに硬性下疳を放置し、消失することで安心されるかたもいますが、決してTreponema pallidumが消失した訳ではありませんので、上記のような症状の時は検査を受けた方が良いでしょう。
第二期梅毒:第一期梅毒から治療をせずに放置しておくと、全身の皮膚・粘膜の発疹や臓器梅毒の症状がみられる様になり、これを第2期梅毒とよびます。手のひら、足の裏にも発疹が出現、体全体にうっすらと赤い発疹が出ることがあり「バラ疹(ばらしん)」ともよばれています。他に.梅毒性乾癬とよばれる、角層の厚い手掌・足底に出現する丘疹性梅毒疹で、赤褐色の、鱗屑を伴い、乾癬に似た、第2期梅毒疹として特徴的な発疹もよくみられます。他、皮膚に見られる病変として、扁平コンジローマ、梅毒性アンギーナ(口腔内).梅毒性脱毛などが有ります。発疹は治療をしなくても数週間以内に消える場合がありますが、再発を繰り返すこともあります。治療を受けていなければ、 Treponema pallidumは残存していますので、後に臓器障害を起こす重篤な状態となる事があります。
第三期、第四期(晩期梅毒):感染後、3年以上経過すると、皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)を発生することがあります。また、梅毒による心臓、血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、大動脈炎、大動脈瘤あるいは脊髄癆、進行麻痺などの症状が現れることがあります。現代ではほとんど見られていません。
無症候梅毒:臨床症状は認められないが、梅毒血清反応が陽性のものをいいます。初感染後全く症状を呈さない場合や、第一期から二期への移行期(初期硬結の消退)、第二期の発疹消退期や陳旧性梅毒(既に治癒しているが血清反応のみ陽性)などの場合は臨床症状がみられません。感染1年以内の無症状期を早期潜伏期、それ以降のものを晩期潜伏期としていますが、晩期潜伏期のもののなかには、治療を要しないものも数多くあるので注意が必要です。
梅毒の検査
梅毒の診断、治療判定には採血による抗体検査、梅毒血清反応にて行います。検査は通常2種類おこないます。この2種追のうち先ずひとつは脂質の一種であるカルジオリピンを抗原とする非特異的なRPRカ一ドテスト(rapid plasma regain cardest)、自動化法による測定です。これは、梅毒感染によっての組織破壊からカルジオリピンが遊離、それに対する抗体が検出されるようになります。この検査は、梅毒の菌体に対する抗体の測定では無く、梅毒による炎症を反映する検査となります。梅毒特異的な検査では無いため、レプトスピラなどの梅毒以外の感染症、自己免疫疾患、妊娠などにおいて生物学的偽陽性(biological false positive : BFP)を呈することがあります。しかし、梅毒感染の場合、治療による反応を見ることが出来るため、次のTPHAなどと共に測定するのが一般的です。
もう一つの検査は、 Treponema pallidum.を抗原とする特異的なTPHA 法(treponema pallidum hemagglutination test)、FTA繰ABS法(fluorescent treponemal antibody absorption test)や、TPLA:treponema pallidum Latex Agglutination )です。この検査法は、 Treponema pallidum.に対する抗体を見ているので、陽性であれば梅毒感染を意味します。しかし、このTreponema pallidum.に対する抗体は、一度陽性となると、治療が奏功しても陰性化はしません。梅毒に対する治療効果判定にはRPRテストが必要となります。そのため梅毒が疑われる場合には上記の2種類の検査を施行する事となります。
RPR |
TPHA |
結果の解釈 |
(-) |
(-) |
梅毒ではない まれに感染初期 |
(+) |
(-) |
生物学的偽陽性 |
(+) |
(+) |
梅毒感染 |
(-) |
(+) |
梅毒治癒後 |
梅毒の治療
梅毒の治療はペニシリンです。以前より海外ではベンザチンペニシリンG 240万単位、筋注の単回治療で、一回の筋肉注射で治療が可能でした。しかし、日本国内では、過去にペニシリンアレルギーによる死亡例が出たために、最近までこの治療法は使用できませんでした。しかしながら、近年、ベンザシンペニシリンG(ステルイズ)の使用が承認されました。これは初期梅毒に対してベンザシンペニシリンG240万単位、1回筋肉注射(臀部)で治療可能です。後期梅毒に対しては1週間隔で3回筋肉注射が必要です。
このステルイズですが、単回投与で治療できるという点では便利かも知れませんが、注意点も有ります。
まず、粘性が高い液ですので18G のかなり太い注射針を使用し、液がつまらないように1分ほどかけてゆっくり注射しなくてはいけません。また、発生はまれですがニコラウ症候群(薬剤性塞栓性皮膚症)にも注意が必要で、これは注射部位の激しい痛み、紅斑、斑状出血、壊死性潰瘍と瘢痕化をおこす事があります。また、ペニシリンアレルギーが万が一あった場合、投与してしまうと薬剤は体内に残ることとなります。この点においては、ペニシリンの内服薬であれば、異常があったときに内服を止める事で対応可能です。
内服としては以下の治療法が推奨されています。
1)アモキシシリン1 回500mg 1 日3 回、4 週投与
2)ミノサイクリン 1 回100mg 1 日2 回、4 週投与
3)スピラマイシン 1 回200mg 1 日6 回 4 週投与
となります。1)のアモキシシリンが基本的な治療法で、ペニシリンアレルギーのある人は2)を選択します。しかし、ミノサイクリンは胎児に影響がある事がわかっているので、妊婦には使用しません。その場合は3)が選択されることとなります。また、アモキシシリンにプロベネシドを2週間併用するのを推奨する報告も有ります。
梅毒感染時にペニシリンを投与した場合、投与24時間内に、発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛などが出現することが有ります。Jarisch-Herxheimer反応と呼ばれるものですが、通常の解熱鎮痛剤で1~2日で改善するので、そのまま投与は継続します。
梅毒の治療効果判定
梅毒の治療開始から、おおむね4週間おきに採血し、治療効果判定を行います。
前述のように、TPHAは梅毒特異的検査ですが、治療後も陰性化することはありません。治療効果判定にはRPR法を用いて判定することとなります。RPR 陽性梅毒の場合、その値が治療前値の、自動化法では2 分の1 (例:64 倍→32 倍)に、2 倍系列希釈法では4 分の1(例:64 倍→16 倍)に低減していれば、治癒と判定します。治療後6か月経過しても16倍(16 R.U.)以上を示す時は、治療が不十分であるか、再感染も考えられるので、その場合は再治療を行うこともありますが、自動化法で2 分の1以下に下がった16倍の時は治癒と判定されます。
2)淋菌感染症
淋菌感染症は、グラム陰性双球菌である淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症であり、男性では尿道炎、女性には子宮頸管炎を起こします。淋菌は温度変化に弱い菌で、発育至適温度は、36~37℃と非常に狭い範囲となっており、通常の環境では発育できません。そのため、人から人への感染、特に性行為が主な感染経路となります。淋菌の学名gonorrhoeaeは「“gono=種、精液」、「rhein=漏れる、流れる」から来ているといわれています。昔は膿が精液に見えて、尿道から精液を常に出しているやつの病気という概念で見られていたようです。
淋菌感染症の症状
淋菌感染症は尿道のみでは無く、精巣上体、骨盤内、さらには咽頭にも感染をきたします。泌尿器科で診察します主に男性に見られる淋菌感染症の症状は以下の通りです。
淋菌性尿道炎:排尿時の痛みで受診されることがほとんどです。性行為による感染後2~ 7日の潜伏期をおいて、尿道炎症状である比較的激しい排尿痛、尿道分泌物が出現します。尿道分泌物は多量、黄白色、膿性で、いわゆる膿がたえず出てくるような状態となることがあります。
淋菌性精巣上体炎:陰嚢の腫脹と疼痛で受診されます。尿道の途中には射精管が開いています。ここは精管を通して精巣上体まで続いているため、尿道炎に続いて、菌が上行して精巣上体炎を発症することが有ります。陰嚢内容は腫脹し、陰嚢部の疼痛は歩行するのが困難なほどで、まれに救急車で来院されることも有りました。多くは発熱、白血球増多などの全身性炎症症状を伴います。非常に強い炎症をきたしますので、精管の閉塞をきたし、不妊症の原因となる事があります。
淋菌性咽頭炎:男女ともに見られますが、性行為の多様化により咽頭への淋菌の感染も認められます。咽頭炎の症状をきたしますが、自覚症状に乏しい場合も有ります。淋菌感染症の場合、咽頭炎の合併も頭においておくことが必要です。実際、性器淋菌感染症患者の10~ 30%に、咽頭からも淋菌が検出されると報告されています。
女性の場合、子宮頸管炎をきたしますが、男性に比較して症状が乏しい事があります。帯下の増量や不正出血が主な症状ですが、無症状の場合も有ります。男性と同様、菌の上行によって子宮付属器炎 (卵管炎、卵巣炎)、骨盤腹膜炎等を発症することも有ります。帯下異常、性交時出血、下腹部痛、右上腹部痛などの症状がある場合は注意が必要です。
淋菌感染症の検査
淋菌感染症が疑われる場合、核酸増幅法(TaqMan PCR、Realtime PCR、SDA、TMA法)によりクラミジアと淋菌を同時検出する検査法が一般的です。尿道炎の場合、初尿や尿道分泌物を検体として出しますが、淋菌性尿道炎が疑われる場合はうがい液を検体として用います。女性の場合は、子宮頸管擦過検体をスワブで採取し検査します。通常結果が出るには数日かかります。この方法は、菌のrRNA(蛋白を合成するリボソームのRNA)を増幅し判定します。rRNAは菌種によって独自の塩基配列を持っています。一方、この方法では菌種は判明しますが、菌の薬剤に対する感受性を見ることは出来ません。薬剤感受性を判定するには、淋菌を培養し、抗生物質に対する感受性検査を行います。淋菌は温度変化に弱いので、通常の尿培養の検体保存のように4℃で保存したりすると死滅するので注意が必要です。
ほかの淋菌感染診断の方法として、グラム染色があります。グラム染色でグラム陰性双球菌が認められます。簡便な方法ですが、クラミジアの同時感染までは判断できませんので、やはり拡散増幅法を用いるのが一般的です。
淋菌感染症の治療
現在、淋菌の薬剤感受性は大きく下がっていることが明らかとなっています。ニューキノロン(レボフロキサシンなど)およびテトラサイクリンの耐性率は、いずれも70~ 80%となっており、経口薬での治療成功率は非常に低くなっています。
現在のところ、治療法として有効なのは
1)セフトリアキソン1g 静注 単回投与
2)スペクチノマイシン2g 筋注 単回投与
となります。 他の薬剤としては、シロップ用アジスロマイシン水和物(ジスロマックSR成人用ドライシロップ2g)が、淋菌性尿道炎、淋菌性子宮頸管炎に適応症を持っていますが、薬剤感受性と臨床効果の関係を検討した報告では、MIC(菌の抗生剤に対する最小発育阻止濃度)が 0.5mg/Lで治療失敗例が出現し、1mg/Lでは約40%で治療失敗したとしている。本邦においても、MIC≥1mg/dlが24%にものぼり、治療成功率が80%を切っています。
注意すべきは、淋菌性咽頭炎です。咽頭感染に対して、スペクチノマイシンは咽頭への移
行が悪く効果が劣るため、セフトリアキソンの静注が推奨されます。セフェムにアレルギーのある場合には、薬剤感受性をみながら、ジスロマックSR成人用ドライシロップ2g、ニューキノロン系薬またはミノサイクリン(MINO:ミノマイシン)が考慮されます。
3)性器クラミジア感染症
クラミジア(Chlamydia trachomatis)は、性行為によって尿道、子宮頸管、咽頭に感染し、男性では尿道炎と精巣上体炎を、女性では子宮頸管炎と骨盤内炎症性疾患を発症します。クラミジア感染症は、分泌物など炎症症状が軽度で、自覚・他覚症状に乏しく受診機会を欠いて長期感染が持続して、感染源となる場合が多くなっています。実際、性行為が活発になる年齢の女性について1割程度以上に自覚症状無くクラミジアを有している事がわかっています。ラミジア・トラコマティスは、特異的な増殖環(developmental cycle)を有しています。クラミジアは、感染性を有する基本小体(Elementary body; EB)が上皮細胞の貪食により細胞内に感染し、感染後に基本小体を包み込むように封入体(Inclusion)が細胞質内に形成。形成された封入体内で、基本小体が代謝活性を有する網様体(Reticulate body; RB)に変化します。そして、再び、基本小体へと変化し、基本小体と網様体の増殖による封入体の増大が進行して上皮細胞の崩壊と共に基本小体が放出され、別の上皮細胞に感染を繰り返すというよな細胞内での増殖という特徴を持っています。クラミジアの生活環は長く、細胞内に入ってから放出されるまで2~3日はかかります。増殖が遅い分、症状が出にくくなっている可能性も指摘されています。
クラミジア感染の症状
男性尿道炎:男性のクラミジア性尿道炎は、感染後3週間以内で軽度の排尿痛、外尿道口からの漿液性分泌物などの症状が出現します。淋菌性尿道炎と比較して潜伏期間が長く、発症は比較的緩やかで、症状も軽度の場合が多いです。分泌物の性状は、漿液性から粘液性で淋菌と比較して、量も少量から中等量と少なく、排尿痛も軽い場合が多いです。軽度の尿道掻痒感や不快感だけで、無症候に近い症例も多くなっています。
精巣上体炎:中年以下の精巣上体炎の多くはクラミジアが原因とされています。クラミジア性精巣上体炎は、他の菌による精巣上体炎に比べ腫脹は軽度で、精巣上体尾部に限局することが多く、発熱の程度も軽いことが多くなってます。
咽頭炎:クラミジアの咽頭感染もあります。診断はうがい液を用いた遺伝子学的検査となります。子宮頸管からクラミジアが検出される場合は、無症状であっても10~ 20%は、咽頭からもクラミジアが検出されることがあります。慢性の扁桃腺炎や咽頭炎のうちセフェム系薬で治療し、反応しないものの約1/3にこのようなクラミジアによるものが存在するしますが、性器に感染したものに比べ、治療に時間がかかると報告されています。
診断、検査
男性のクラミジア検出法としては、初尿を検体として、核酸増幅法であるTMA(transcription mediated amplification)法、SDA(strand displacement amplification)法、real-timePCR法などで診断します。検体には尿の他に、尿道擦過物、子宮頸管擦過物、うがい液なども用いる事が出来ます。
治療法
ニューキノロン系薬、マクロライド系薬またはテトラサイクリン系の抗生物質を投薬します。
1)レボフロキサシン(クラビット) 1日 500mg×1 7日間
2)アジスロマイシン(ジスロマック) 1日 1,000mg×1 1日間
3)アジスロマイシン(ジスロマックSR) 1日 2g×1 1日間
4)クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)1日 200mg×2 7日間
5)ミノサイクリン(ミノマイシン)1日 100mg×2 7日間
妊婦の場合はマクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンとなります。今のところ、クラミジアの抗菌薬に対する薬剤耐性は認められていませんので、上記の薬剤による治療で治癒すると考えられます。
治療しても再発する場合は、パートナーの治療がうまくいっていない可能性も考えるのも重要です。パートナーと同時に治療し、治療完了するまでは性交渉を避けましょう。
性器ヘルペス
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)1型または2型の感染によって、性器に痛みを伴う浅い潰瘍性または水疱性病変を形成します。HSVは、性器に感染後、神経を伝わって上行し、腰仙髄神経節などに潜伏感染します。潜伏感染したHSVは、免疫力の低下などの際に再活性化し、ウイルス粒子を形成して、神経を伝わって下行し、支配神経末端の皮膚や粘膜に現れ、病変を形成します。
性器ヘルペスはHSV-2 による感染が主で、口唇ヘルペスではHSV-1が中心ですが、近年の性行為の多様化により、はっきり分類ができなくなってきています。
性器ヘルペス感染症の症状
男性:症候性または無症候性にHSVが放出されているパートナーとの性的接触により、2~ 10日間の潜伏期後に、外性器に病変が出現します。初感染時には、性器にかゆみや違和感を伴った直径1~ 2mm の複数の水疱が出現、その後水疱が破れ、円形の痛みを伴う浅い潰瘍となります。その間、鼠径リンパ節腫脹や尿道分泌物もみられる事もあります。再発時には、初感染時とほぼ同じ部位に、または殿部や大腿部に、病変を形成しますが、症状は軽く、治癒までの期間も1週間以内と短くすみます。
女性:性的接触の後、2~ 10日間の潜伏期をおいて、比較的突然に発症することが多いです。38℃以上の発熱を伴うこともあります。大陰唇や小陰唇から、腟前庭部、会陰部にかけて、浅い潰瘍性または水疱性病変が多発し強い痛みを伴います。鼠径リンパ節の腫脹も認められます。2~ 3週間で自然治癒しますが、抗ヘルペスウイルス薬を投与した方が短期間で治癒します。ときに強い頭痛、項部硬直などの髄膜刺激症状を伴うことがあり、また、排尿困難や便秘などの末梢神経症を伴うこともあります。 再発時の症状は、初感染のときより軽く、性器、殿部、大腿部に小さい潰瘍性または水疱性病変を数個形成するだけのことが多いです。
診断・検査
陰部への特徴的な症状があれば本症を疑います。最近ではHSV抗原のイムノクロマトグラフィー法が使われるようになってきています。潰瘍部のぬぐい液を使用して診断します。また、血中抗体の測定も参考になります。初感染ではIgM分画の抗体が7~10病日には出現します。他、ウイルスの分離同定や、塗抹標本の蛍光体法なども検査として有用なことが有ります。
治療
抗ヘルペスウイルス薬を使用することにより、治癒までの期間が明らかに短縮します。
初発例
1)バラシクロビル500mg 2T 2X 5日~10日間
2)アシクロビル200mg 5T 5X 5日~10日間
再発例
1)バラシクロビル500mg 2T 2X 5日間
2)アシクロビル200mg 5T 5X 5日間
潰瘍部
5%アシクロビル軟膏を1日数回、5~ 10日間塗布
再発抑制
アシクロビル(1回400mg、1日2回)、バラシクロビル(1回500mg、1日1回)投与
1年間継続投与後、再投与するかを検討します。
アシクロビル、バラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬はヘルペスウイルスのDNA複製阻害薬です。ウイルスが増殖するのを抑制しますが、神経節に潜伏感染しているウイルス(もしくはウイルスDNA)を不活化、破壊するものではありません。つまり、薬剤では発症したときのウイルス増殖を止めるだけで、薬を内服したからと言って、その後再発しないと言う事ではありませんので注意が必要です。