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腎移植とサイトメガロウイルス感染

[2024.03.03]

先日、2月29日、福島県立医科大学微生物学講座の錫谷教授の最終講義がありました。私も大学にいたときには同講座に在籍していたことが有り、錫谷教室で研究させていただいていました。錫谷先生は福島医大に着任するまえにはCDCで研究をしており、そのときのテーマがサイトメガロウイルスでした。

当時私は福島赤十字病院で臨床のみをしていたのですが、以前からもっと研究をしたいと考えており、泌尿器科の故山口前教授に相談し、錫谷教室で研究をさせていただく事となりました。

 

その際の研究テーマが腎移植とサイトメガロウイルスでした。サイトメガロウイルスはあまりメジャーなウイルスではないかも知れませんが、泌尿器科領域では頻繁に見かけるヘルペスウイルスとおなじヘルペスウイルス科のウイルスで、ほとんどの人は幼少時、もしくは若い頃に感染していると考えられています。その後ウイルスは体内に潜伏しますが、ほとんど問題はきたしません。しかしながら臓器移植等の際に免疫抑制剤を使ったりしたような場合には重症肺炎をおこす事もあり泌尿器科領域のウイルス感染では重要な位置を占めています。

自分が錫谷教室で研究を始めるちょうどそのとき、サイトメガロウイルスの再感染:母子感染に関する論文がNEJMに掲載されました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11333993/

 

サイトメガロウイルス感染は梅毒やヘルペスとおなじで、いわゆるTORCH症候群のひとつであり、母子感染することにより児に障害をきたすウイルスのひとつであったのですが、通常は既に感染して免疫を持っているために、妊娠中にサイトメガロウイルスに感染すると言うことは考えにくいウイルスでした。しかしこの論文では、サイトメガロウイルスの異なる株に再感染して、児に感染をきたす事があると言うことを示していました。

この論文から、腎移植でもサイトメガロウイルス再感染が起こるのではないかとの仮説を立て検証することとしました。そのためには、腎移植のドナーとレシピエントに潜伏感染するサイトメガロウイルス株を同定するために、抗体検査系を独自に開発することとしました。これが一番の律速段階となっており、研究開発当初は動物細胞からの蛋白発現系を試み、うまくいかないことから、昆虫細胞発現系に変更、それもうまくいかず最後に大腸菌での発現系に変更しました。こう書くと簡単に聞こえますが、ここが本当に大変で、当時は蛋白発現系のメカニズムも勉強しながら、いろいろな実験本を読みながら、それでもうまくいかない日々が続いていました。

うまくいかず、もんもんとしているある日の昼食中に、錫谷先生に相談したところ、「じゃあ、○●やってみたら?」みたいに軽く言われたこと、試してみたらうまくいき、実験がぐっと進んだのを覚えています。その後もいくつかの研究テーマが見つかり、うまくすすんだのですが、これも、偶然というか、論文とにらめっこしている時ではなく、少し離れたところのテーマの本を読んでいたときに「あれ?これ今の研究に応用できるんじゃね?」みたいになって、そこから論文を読んで論旨を固めていって、研究していったのも覚えています。

 

腎移植の研究では腎移植の時に、違う株のサイトメガロウイルスの再感染がおこることがわかりましたが、今日に深いことに、再感染では急性拒絶反応が起こりやすい事が明らかとなりました。これはおそらくは、中和抗体が異なるために再感染がおきたとき、レシピエントが持っている細胞性免疫が活性化して急性拒絶反応が起こるのかと考察しました。

このときいろいろ考えながら、勉強しながら論文を書いたのが、現在の自分のウイルス感染賞の知識の土台となっている気がします。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17554702/

 

錫谷教室での研究期間は非常に楽しく有意義なものでした。わからない事はまず論文を調べるという癖もつきましたし、考えが行き詰まったときなど、論文とにらめっこしてうんうんうなっているよりも友人とリラックスした状況で話していたり、一見関係なさそうな本を読んでいたりするとふと解決することがあるなど、様々な経験をしたなと思います。

 

錫谷先生の最終講義はWeb予約していたのですが、結局見ることができませんでした。それだけが残念。

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