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下部尿路症状に関する疫学調査、過活動膀胱の有病率

[2024.04.21]

先日、日本排尿機能学会から約20年ぶりに実施された下部尿路症状に関する疫学調査の結果が公表されました。20歳以上の約1,300万人が過活動膀胱に罹患していることが判明したと発表されています。

 

尿路とは、その名の通り尿の通り道のことを指しますが、尿は左右の腰背部にある腎臓で作られ、腎から尿管を下って膀胱に貯留されます。そこから尿道を通って排出されるのですが、ざっくり腎~尿管にかけては上部尿路、膀胱~尿道にかけて下部尿路となり区別されます。

 

この尿路に菌がはいるといわゆる尿路感染症となるのですが、これも上部尿路と下部尿路では異なり、上部尿路の感染ではいわゆる腎盂腎炎となり、高熱がでたりして重症化することも多々あります。一方下部尿路感染の代表は膀胱炎であり、膀胱の炎症だけであれば発熱等はなく軽症ですが、頻尿や残尿感などの症状が主となります。

 

今回発表された疫学調査は下部尿路症状についての調査ですが、この下部尿路症状は蓄尿と排尿に関連する症状のことを指しており、蓄尿症状には昼間頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁などが含まれ、排尿に関する症状には尿勢低下、尿線分割・尿線散乱、尿線途絶、排尿遅延、終末滴下などが含まれます。この下部尿路症状に関して、匿名で国内の20~99歳の個人を対象に日本人の人口構成に基づいて集めた6,210人(女性3,088人、男性3,122人)にたいして集計されました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38514235/

 

アンケートの結果では下部尿路症状 の有病率は、20 歳以上で 77.9%、40 歳以上で 82.5% でした。 下部尿路症状の有病率は年齢とともに有病率が大幅に増加する傾向でした。 さらに、過活動膀胱(OAB)の有病率は20歳以では11.9%、40歳以上では13.8%でした。 またこの下部尿路症状 が日常生活に悪影響を及ぼしていることも示されました。下部尿路症状の治療を受けるために医療機関を受診した人の割合は、年齢とともに増加傾向に有りました。

下部尿路症状が日常生活に影響を与えるした比とは12.4%であり、中でも最も多く影響を与えていた症状は夜間頻尿でした。下部尿路症状の症状を有する人のうち、治療を受けているのは4.9%であり、中でも過活動膀胱の症状を有する人のうち、治療を受けているのは16.0%であったとのことです。下部尿路症状で医療機関を受診する割合は低いので、今後も啓蒙活動が必要であると述べられています。

 

下部尿路症状の治療を受けていない理由としては、症状に困っていない(86.4%)、下部尿路症状を病気だと思っていない(16.9%)、下部尿路症状は老化のためだからと思っている(15.0%)などが挙げられています。

 

 

下部尿路症状に対するこの様な認識は、日本だけではないようです。たとえばポーランドからも65歳以上のひとの下部尿路症状および過活動膀胱の有病率、生活の質への影響などが調査され報告されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37109196/

 

この調査では平均年齢は 72.5歳の参加者 2,402 名 (女性 60.4%) でした。 最も一般的な症状は夜間頻尿でしたが、下部尿路症状の有病率は79.5%(男性:76.6%、女性:81.4%)、過活動膀胱の有病率は51.4%(男性:49.4%、女性:52.8%)で、有病率は年齢とともに増加しました。下部尿路症状、過活動膀胱を有している人の約半数は、生活の質が低下していました。 しかし、治療をしているのは参加者の 3 分の 1 だけであったとの事で、症状に悪影響を受けているひとの多くはは治療を受けていませんでした。 そのため、このレポートでは高齢者にとって、LUTS と OAB、および健康な老化に対する 下部尿路症状 と 過活動膀胱の悪影響についての一認識を高める必要があると結論づけています。

 

過活動膀胱は,尿意切迫感を必須とし,通常は頻尿および / または夜間頻尿を伴う症状症候群をいいます。この尿意切迫感は急に強い尿意を感じると言う症状で、場合によっては尿漏れ、切迫性尿失禁を伴います。手をあらったり、水の音を聞いたりしただけでも漏れそうになってしまうという方も多いです。

 

当院で現在内服治療中の方に、タクシーの運転手さんがいます。仕事中に急激に尿意を感じることがあり困っていると受診されました。お客さんを乗せているときだと、トイレに行けないのでなんとかならないかとの事でしたが、β3アゴニストの内服によって仕事に支障が無くなりとても良かったととてもうれしそうに話していました。

 

過活動膀胱は確かにすぐ命に関わる事はありませんが、生活の質を落とす事が多い病態です。日常生活に支障をきたす場合は医療機関に相談するのが良いと思います。

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