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腸内細菌と高血圧

[2024.05.15]

我々ヒトは、無菌状態でいられることはありません。体内の様々な部分に常在菌として様々な筋が存在しており共生している状態です。それは決して有害であるとは限らず、場合によっては有益な役割を果たしていたりします。ただ、常在菌が、普段存在している臓器と異なるところに侵入してしまった場合は感染症として、宿主(ヒト)に対して有害な症状をきたしてしまう事があります。たとえば泌尿器科領域でいえば、おなかの中にいる大腸菌、これは腸内に存在している場合はあまり危害を加えることがないのですが、腸管と異なる尿路に侵入してしまうと、膀胱炎や腎盂腎炎を発症させてしまいます。

腸管に存在する菌として大腸菌を上げてみましたが、実際ヒトの腸管内には、それ以外に実に多くの種類の菌が常在菌として存在しています。ヒトにはおよそ10~100兆を超える共生微生物が人間の体内に存在しており、これらの微生物の大部分は回腸遠位部および結腸(腸内細菌叢と呼ばれる)に生息しています。そしてこれらの菌は一人一人その種類や割合が異なります。

 

近年は腸内細菌叢の研究が盛んになっており、様々な疾患との関連性が報告されています。

たとえば腸内微生物叢とその代謝産物である短鎖脂肪酸、リポ多糖類(LPS)やトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)などは、心臓血管系に影響を与えるとされています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33003455/

 

動物実験では高血圧モデルにおいては、野生型モデルと異なる腸内細菌叢を持っていることが示唆されており、短鎖脂肪酸生成細菌が少ない、乳酸生成細菌が多い、バクテロイデスの存在量が異なる等の報告が有ります。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25870193/

 

ヒトにおいても高血圧患者は、短鎖脂肪酸産生微生物叢の量が少なく、LPSの供給源であるグラム陰性細菌の量が多いことが示されています。短鎖脂肪酸は血圧調整の役割あり、またLPSはマクロファージを活性化するので炎症をきたします。つまりアテローム性動脈硬化症は、腸内微生物叢の影響を受けると考えられます。

腸内細菌叢異常に関連した腸上皮バリアの破綻は、全身性炎症を引き起こし、 腸内環境の変化は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系、自律神経系、免疫系など血圧調節に関連している機構を活性化するとされています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36631562/

 

さらに近年ではコレステロール値の低下に関連している可能性のある腸内細菌が見つかっています。、1,429人のフラミンガム心臓研究参加者から便のメタゲノミクスとメタボロミクスを作成し解析した結果、Oscillibacter属の菌種は、血漿コレステロールレベルの低下と関連している事がわかりました。コレステロール代謝が系統学的に多様なOscillibacter属は、脂質の恒常性と心血管の健康に潜在的な利益をもたらすことを示唆していると考えられています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38569543/

 

 

この分野での研究はここ10年で進んできています。

ヒトの腸内細菌叢の異常は、抗生物質の使用、食生活の変化、生涯にわたるライフスタイルの変化などの環境の変化によって発生します。

将来的には腸内微生物と代謝産物を調節することによって心血管リスクを改善させるという治療戦略の開発が望まれることとなりそうです。

昔からヤクルトは多くの日本人に愛されている飲料ですし、最近では免疫力向上や尿酸値低下などを謳っている乳製品なども出てきています。実際のデータは確認していませんがこれらの製品は腸管に補充する菌の効果を狙ったものだと考えます。現時点では経口的にとる乳製品や発酵食品の細菌類は、なかなか腸内に常在菌と入れ替わって定着することは難しく、いわゆる通過菌となる事がほとんどです。なのでこういった製品は一本二本飲んだだけでは効果は薄く、摂取し続けることで効果が発揮される可能性が有ります。

 

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