アビガン:藤田医科大学、有効性示せず、東大病院:ナファモスタットとアビガン併用の有用生示唆、観察研究
以前より藤田医科大学において、臨床研究「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」が行われていました。この研究は、新型コロナウイルス感染と診断され、1日目から内服した群と6日目から内服した群との比較です。通常、薬剤の比較試験ですと、薬剤投与群と非投与群での比較という形がとられることが多いと思いますが、今回の新型コロナウイルスは、薬剤非投与という群を作るのは人道的に難しい事から工夫して、この様な「通常投与群」と「遅延投与群」に分けられたと考えられます。
そして、評価項目が「6日目までの累積ウイルス消失率」や「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」となっているので、実際には投与群と非投与群での比較となっています。
この研究は通常投与群36例、遅延投与群33例を対象に行われています。
結果ですが、「6日目までの累積ウイルス消失率」は通常投与群で66.7%、遅延投与群で56.1%、調整後ハザード比は1.42(95%信頼区間=0.76-2.62、P値=0.269)と発表されています。P値が0.05以下でないと有意差無しですので、ウイルス消失率に差が無いと判断されます。
また、「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」は通常投与群で94.4%、遅延投与群で78.8%、調整後オッズ比は4.75(95%信頼区間=0.88-25.76、P値=0.071)とのことです。もう少しで0.05切ったかも知れませんが、有意差無しです。ただ、このウイルス半減効果はアビガン投与によって4.75倍となっています。
ほか、「37.5℃未満への解熱までの平均時間」は通常投与群で2.1日、遅延投与群で3.2日、調整後ハザード比は1.88(95%信頼区間=0.81-4.35、P値=0.141)で、これも有意差無しですが、アビガン投与に寄って解熱期間が短縮する可能性は考えられます。
https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv0000006eya.html
今回の結果、統計的に有意差を認めることが出来ず、結果的にアビガンの投与の優位性を示す事が出来ませんでした。これは恐らく各群の症例数が少なかった事によることが考えられます。今回の新型コロナウイルスのように、一部重症化するものの、軽症に終わる割合も多い感染症で、また、臨床研修のスタートの時点では本邦の患者数が減少傾向にしていた時期でしたので、症例を集めるのには少し苦労したのではと推察しています。
一方、レムデシベルは新型コロナウイルスの死亡率を下げる可能性を発表しています。レムデシビルを投薬した患者の74.4%が14日目までに回復した一方、標準的な治療を受けた患者は同59%が回復し、レムデシビルを投薬した患者の死亡率は14日目で7.6%。投薬しなかった患者の死亡率は同12.5%だったとのことです。
このレムデシベルのギリアド社は、第Ⅲ層試験だけでも312例の重症新型コロナウイルス患者を登録しています。この様に、臨床試験の時は、数が物を言います。藤田医科大学のアビガンの研究も、開始タイミングが早ければ、症例数ももっと増え、有意差も出た可能性は否定出来ません。研究開始までは、いろいろなハードルがあるのですが、この様な緊急時には早急に研究開始が認められていたら、と考えます。
アビガンについては、東大病院が肺炎を発症し集中治療室での治療を必要とした新型コロナウイルス陽性患者を対象に、ナファモスタットメシル酸塩とアビガンの併用療法の人道的使用による観察研究を行いました。その結果、ナファモスタットメシル酸塩とアビガンの併用療法を患者11例(中央値68才、男10:女1)に対して行ったところ、10例において臨床症状の軽快が見られたとのことです。ナファモスタットメシル酸塩がウイルスのヒトの細胞への侵入を抑制する効果が期待できる薬剤で、また抗凝固薬でも有ります。新型コロナウイルスが、血管内皮細胞に感染する可能性や、その結果血栓を形成する可能性が指摘されていることから、この抗凝固作用も、良い方向に働いている可能性も考えられます。
https://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/20200706-1.html
この東京大学の発表も観察研究であり、臨床研究とは異なるため、このナファモスタットメシル酸塩とアビガンの併用療法が他の治療法や、単剤と比較して優位と言える結果ではないのですが、今後の研究継続が望まれるところです。
症例数で米国にはとうていかなわなくて、そのため臨床研究の結果が出にくいとは思われるのですが・・・本当は研究よりも感染者が少ないにこしたことは無いです。