メニュー

インフルエンザにかかってしまったら:タミフルか、ゾフルーザか

[2019.12.15]

インフルエンザ感染症の流行が加速しています。福島県において、12月2日~12月8日の集で、インフルエンザ定点医療機関(県内83カ所)からの患者報告数が1定点あたり12.81人(報告数1,063人)となり注意報レベルを超えたとの報告でした。

この流行レベルの測定は、定点測定であり、県内で定点と定められている医療施設においてインフルエンザ感染症と診断された場合に報告され、その人数から流行具合を測定する方法です。いわゆるテレビ番組の視聴率を測定する方法と同じと考えて良いと思います。朝ドラのスカーレットは視聴率20%ほどを示して、視聴率はトップを走っていると思いますが、これも日本の家庭全部を調べているわけではなく、調査対象となった世帯のデーターを抽出して出されるデーターです。ただ、感染症においては、一般的な感染症でも麻疹や梅毒、HIV感染症などのように、診断したときには、どの医療機関も必ず報告しなければならない感染症も有ります(全数把握)。

 

定点把握のインフルエンザ感染症の場合、流行開始が定点当り1人以上の場合に当ります。今年は10月7日の集にはすでに「流行入り」していました。定点あたり10人以上ですと、「注意報レベル」となります。これはここ1ヶ月以内に大きな流行がおこる恐れがある状態です。そして、定点あたり30以上となると、「警報レベル」となり、大きな流行の発生・継続を示します。定点辺り10を切るまではこの『警報レベル』となります。

 

実際、当院でもインフルエンザウイルスの患者さんがちらほら受診されております。もちろん、軽い風邪で受診される方もいるのですが、やはりインフルエンザ感染の患者さんとは違いがあります。インフルエンザウイルス感染症の患者さんはやはり、若い方でも倦怠感が強く、頭痛や関節痛などを訴えることが多いようです。また、よく問診しますと、すでに周囲にインフルエンザと診断された同僚がいたりとか、人と接する機会が非常に多い職場環境であったりとかが多い印象です。

さて、不運にもインフルエンザに感染してしまった場合、やはり抗インフルエンザ薬の使用が良いでしょう。インフルエンザ感染は内服薬無しでも、無論回復可能ですが、あの症状から少しでも早く回復したいと、誰もが考えると思います。

抗インフルエンザ薬には、ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)、ペラミビル(ラピアクタ)およびラニナミビル(イナビル)に加えて、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ)が使用されるようになりました。タミフルに代表されるノイラミニダーゼ阻害剤では、細胞内で増殖した大量のウイルスが細胞外へ放出されるのを抑制します。一方、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬であるゾフルーザは、ウイルスのmRNAの合成を阻害することで抗ウイルス効果を発揮しています。このキャップスナッチング機構は、インフルエンザウイルスに特徴的な働きであるため、ウイルスRNAだけに対して作用し、人のmRNAを阻害することはありません。そして、タミフル、ゾフルーザどちらの薬剤もインフルエンザ罹患期間を短縮させ、2剤に有意差はありません。少し気になるのは、バロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ)投与時の、変異株の検出です。臨床試験において、バロキサビル投与患者のうち 、小児の23.3%、成人の9.7%にアミノ酸変異株が認められたと報告されています。PA遺伝子の38番目のアミノ酸イソロイシンがスレオニンに置き換わるの、I38Tが認められるとインフルエンザウイルスのバロキサビルに対する感受性は約50倍低下します。早期に耐性株が出てきてしまうのは注意が必要で、実際国立感染症研究所の耐性ウイルスのサーベイランスでは、インフルエンザウイルスのタイプで、A(H1N1)pdm09という2009年に世界的流行を起こしたウイルスで1.8%、A(H3N2)という以前から流行しているウイルスで9.6%とのことです。

もちろん、タミフル耐性株もノイラミニダーゼ(NA)蛋白質の275番目のアミノ酸がヒスチジンからチロシン(H275Y*)に置換された株では耐性になります。しかし、耐性株の頻度は1%程度であり、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬の方が耐性株が出やすい印象です。

インフルエンザウイルスはRNAウイルスであり、DNAウイルスと比較して、変異がおこりやすい傾向はあると思います。ノイラミニダーゼ阻害薬とキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬の選択は悩ましいですが、今のところ12歳以下には特にノイラミニダーゼ阻害薬が優先されるようです。しかし、様々なターゲットの抗インフルエンザ薬が開発されるのはいいことで、今後のデーターの蓄積が必要です。

まずは、インフルエンザウイルスと診断された場合、早めにノイラミニダーゼ阻害薬を内服するのが良いと考えます。もちろん内服無しでも回復していきますが、インフルエンザ感染は、他のウイルス感染と異なり、体力の消耗が激しいので、個人的には抗インフルエンザ薬の内服を勧めます。そして、外出をしないことと、マスクをしておくことです。周囲への感染拡大を抑制することが非常に重要となります。

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME