インフルエンザワクチンと新型コロナウイルスワクチン
10月1日から高齢者を対象としたインフルエンザ予防接種が始まります。今年は定期接種対象者でインフルエンザワクチンの接種を希望される方は10 月1日(木)から接種を行い、それ以外の方は、10 月26 日(月)からとされています。
まず、高齢者のハイリスクの方になるべく早く接種していただくという趣旨です。
インフルエンザワクチンはウイルス表面にあるヘマグルチニン(HA)に対する抗体を誘導します。このHAは人の細胞に感染するのに必要な蛋白です。これに対して抗体がくっついてしまえば、インフルエンザウイルスは人の細胞に感染ができなくなってしまいます。この様な、ウイルスの感染力をなくす効果のあるウイルスを「中和抗体」と言います。
インフルエンザ予防接種の効果については、「65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があった」こと、「6歳未満の小児を対象とした2015/16シーズンの研究では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は60%」と厚労省から報告されています。ワクチンを接種せず発病した方のうち60%は、ワクチンを接種していれば発病を防ぐことができたという結果です。
この結果からも、卵アレルギーなど無ければ、ワクチンは接種しておいた方が良いでしょう。より効果のあるインフルエンザワクチンの開発は今も進められています。将来より効果のあるワクチンが開発される可能性もあるでしょう。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1002842
米国のモデルナ社による新型コロナウイルスワクチンにおいて、初期試験で高齢者にも若年層と同等の抗体形成効果を示すことが報告されました。このワクチンmRNA-1273は新型コロナウイルスの表面にあるスパイク蛋白をコードしています。このスパイク蛋白はインフルエンザウイルスにおけるHAと同じで、人に感染する時に使います。つまり、スパイク蛋白に対する抗体は「中和抗体」と言う事になります。
今回の論文では、ワクチンを投与された56歳から70歳までの全ての高齢者において、18歳から55歳までのワクチン接種者の間で以前に報告されたものと同等の中和抗体が産生されたと報告されていました。この中和抗体の活性は、新型コロナウイルス感染から回復した人の血清よりも上回っていたとのことです。またType1 Helper T細胞の関与するサイトカインが誘導されたとのことです。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2028436
新型コロナウイルスに対する中和抗体が、効果的に産生されれば、インフルエンザワクチンの効果と同様、発症予防効果が期待できると考えます。
ワクチン開発の競争には日本も参入していますが、安全で効果的に中和抗体が産生されるのがどれなのか、もう少し待たないといけないようです。
今年の冬には新型コロナウイルスワクチンは間に合わなそうですが、インフルエンザワクチンは接種しておきましょう。