喫煙(たばこ)の是非・・・
先日、産業医として担当している企業の安全衛生委員会でのたばこに関する講演をしてきました。
最近、昭和時代の映像が放映されたり、またドラマ「不適切にもほどがある!」でも見ることができたりしますが、あの時代はまさに職場や公共交通機関でたばこを吸うのが、まあ、普通でした。今思い返すと、ほんとすごい時代でした。
最近は多くの場所で禁煙となっているので喫煙者は肩身の狭い思いをしているでしょう。しかもたばこはどんどん値上がりしていってます。
たばこにはたばこ税がかけられていますが、このたばこ税は市町村ごとにその用途を自由に決めても良いもので、小中学校や図書館、美術館、博物館などの教育施設にかかる費用、高齢者や障害者のための福祉施設運営にかかる民生費、災害や火事のときの消防費、観光地の開発や整備などにかかる産業経済費、道路の整備、下水道管理にかかる土木費など様々な用途につかわれています。
JTのホームページを見てみると、紙巻きたばこの売り上げは年々減っているにも関わらず、たばこ税の税収は横ばいです。もちろんこれは、たばこ税を上げているからで、政府としてもタバコの消費が下がってきていても、たばこ税は何とか確保したいと考えているのだと思います。
なので、喫煙者は自分の身を削ってたばこが高くなっても頑張って税を納めてくれているということになるかもですね。知らんけど。
ただやはり、健康に害があることはあきらかなのが喫煙です。平成30年7月に望まない受動喫煙の防止を目的とする改正健康増進法が成立し、学校・病院等は令和元年7月1日から原則敷地内禁煙(屋内全面禁煙)が、飲食店・職場等には令和2年4月1日から原則屋内禁煙が義務化されています。この法律の改正の第一が望まない受動喫煙をなくすということにあります。
講演ではたばこの害として以下の3つをお話ししました。
1.たばこの害としてはまずは「がん」との関連です。米国からの論文では2019年における米国の30歳以上の成人における全がん罹患数の40.0%(71万3,340/178万1,649例)、全がん死亡数の44.0%(26万2,120/59万5,737例)が論文内で評価されたリスク因子と関連していることが明らかとなりました。そして全がんの罹患/死亡に関連するリスク因子の1位は喫煙(19.3%/28.5%)だったとのことです。喫煙には受動喫煙も含まれています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38990124/
喫煙がリスクとなるがんは肺がんや乳がんだけではありません。私の専門としている泌尿器系のがんでは膀胱がんは喫煙がリスクとなっていることは有名です。最近では私も大好きなサンドイッチマンの伊達さんが膀胱がんにて手術(おそらくは内視鏡手術)を受けたことを報告しています。そして伊達さんは大好きだったたばこをやめると言ってました。
近年の論文ではがんと診断された半年以内の禁煙は生存率を改善させると報告されています。伊達さんの判断は正しいと考えられますね。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39480450/
2.タバコの有害性として心疾患も上げられます。心疾患との関連性は明らかで論文は数多く出ています。有名人ではアナウンサーの徳光和夫さんが心筋梗塞となりましたが、徳光さんは心筋梗塞となる前は一日100本吸っていたとのことですが、さすがに今はやめているでしょうか。喫煙は心筋梗塞、心房細動、心不全などとの関連がわかっていますので心疾患を持っている人も禁煙が望ましいです。
3.そしてもう一つの有害性は老化です。特に皮膚にはその変化が表れやすく以前からスモーカーズフェイスとして有名です。老化に関しては、個人差があるのではとか、遺伝の影響もあるのではとの批判もあり得るので、遺伝子が全く同じの双子で、一方が喫煙者、もう一方が非喫煙者であるペアを79組探して研究しています。その結果、喫煙する双子は、非喫煙者と比較して、上まぶたの皮膚の余剰、下まぶたのたるみ、頬のたるみ、ほうれい線、上唇のしわ、下唇の赤み、および頬のたるみが見られているとのことです。特に喫煙歴が 5 年異なると、双子の顔の老化にあきらかなな差が生じる可能性があると結論づけています。
こういう研究をやっちゃうところがアメリカのすごいところ。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23924651/
そして最近の研究では男性ではタバコ1本あたり17分、女性では22分という平均余命が減少すると報告されました。60歳の喫煙者は通常、70歳の非喫煙者と同じ健康状態とのことです。つのだじろうさんの漫画『恐怖新聞』みたいなやつですね。知らない人も多いかもですが。ただ、喫煙をやめるのが早ければ早いほど、また喫煙を避ける本数が多いほど、寿命が長くなるようです。計算上、1日10本のタバコを吸っている人が2025年1月1日に禁煙すれば、1月8日までに丸1日、2月20日までに1週間、8月5日までに1か月の寿命の減少を防ぐことができ、年末までに、50日間の寿命の減少を防ぐことができると述べています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/add.16757
今回の公演ではタバコの害について3つお話しさせていただきましたが、実は日本人の3大死因は、がん、心疾患、老衰となっています。令和5年の死亡数を死因順位別にみると、第1位は悪性新生物<腫瘍>で 38 万 2492 人(死亡率(人口 10 万対)は 315.6)、第2位は心疾患(高血圧性を除く)で 23 万 1056 人(同 190.7)、第3位は老衰で 18 万 9912 人(同 156.7)とのことです。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/gaikyouR5.pdf
つまり、喫煙はこの日本人における3大死因をゲットできるプライオリティパスということになります。ディズニーランドで課金したらアトラクションに優先的に乗れるかもしれませんが、たばこに課金するとこの3大死因が優先的にゲットできるということになります。夢の国ではなく、永遠に目が覚めない国へのチケットですが。あとは、それぞれの考えで・・。