ワインと循環器疾患:フレンチパラドックス
虚説性心疾患をはじめとする循環器疾患は、加齢と共に発症率が高まります。「人間は血管と共に老いる」と言われているように、血管で老化が進み、これに伴い老化分子p53などの発現亢進をきたし、血管機能不全をおこしていくと考えられています。
過去の疫学研究で飽和脂肪摂取量や血清コレステロール値が高いほど,心筋梗塞死亡率が高いということが報告されました。しかし、フランスでは,飽和脂肪摂取量が高いにもかかわらず心筋梗塞死亡率が北欧諸国などと比べて低いというとされました、これをフレンチパラドックスいいます。
最近、ワイン消費と心血管死亡率、心血管疾患 (CVD)、および冠状動脈性心疾患 (CHD) との関連性に関するメタアナリシスの論文が発表されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37375690/
この論文の結論としては、ワイン摂取はCHD(RR=0.76)、CVD(RR=0.76)、心血管死のリスク(RR=0.73)をいずれも有意に低下させたと言うものでした。
ワインは他のアルコール飲料よりも CVD に対して有益な効果があるようです。この理由として一番考えられているのは、赤ワインに含まれているポリフェノール、アントシアニン、ケルセチン、ミリセチン、カテキン、エピカテキン(フラボノール)です。とくにポリフェノール一種であるレスベラトロールは。このレスベラトロールは強い抗酸化作用をもっており、いわゆる長寿遺伝子といわれるSirtuin遺伝子に作用すると言われています。また、レスベラトロールは血管内皮の一酸化窒素(NO)を増やして血管拡張にはたらく事が知られています。
ワインに含まれている成分により LDL 酸化、血栓症のリスク、血漿および過酸化脂質を低下させ、また、アルコール成分は、血栓症のリスクとフィブリノーゲンレベルを低下させることが生体に有利に働くようです。
2006年には高カロリー食によって短縮するマウスの寿命がレスベラトロールによって改善したという報告もNatureに掲載されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17086191/
抗老化作用を発揮するために必要なワインは少なくともグラス3~4杯とされています。
しかし、ワインによる健康への寄与については摂取量も重要で、軽度から中程度の飲酒は全死因死亡、糖尿病や腎炎による死亡のリスクを低下させることが示されているようですが、大量飲酒者は全死因死亡や事故のリスクが大幅に高まるだけでなく、癌の発症と癌による死亡リスクも大幅に増加することが知られています。
循環器疾患についても、ワイン摂取量と循環器疾患死亡との間には J 型の関係が認められています。
https://www.jacd.info/library/jjcdp/review/55-2_01_kawano.pdf
メタアナリシスの結果はワイン好きの方にはうれしい結果でしょうが、過度な接種とならないように気をつけたいところです。