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腸内細菌と健康 ― 食事・免疫・病気予防

[2025.05.31]

近年腸内細菌(腸内マイクロバイオータ)と健康との関係について、注目が集まっています。先日の泌尿器科学会総会でも腸内細菌と前立腺癌の研究についての講演があり興味深く拝聴いたしました。

私たちの腸内には、数百兆個以上の細菌が住んでおり、これらは消化や栄養吸収だけでなく、免疫、代謝、神経機能にまで関わっています。とくに重要なのは、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸(SCFA)という代謝物で、腸のバリア機能を高め、全身の炎症を抑える作用があります。

これまでの研究では、腸内細菌が、腎がんなどの治療に用いられるがん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)の効果を左右することも報告されています。これは、腸内細菌が免疫細胞を活性化し、腫瘍微小環境を再構築することで、抗腫瘍免疫応答を促進するためと考えられており、腸内環境の重要性がますます注目されています。

 

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9052532/

 

 

腸内細菌は様々な疾患にも関与していることが考えられています。

 

腸内細菌のバランスが乱れるdysbiosisは、以下のようなさまざまな疾患の発症・悪化に関与していることが明らかになっています。

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)

腸内細菌の多様性が低下し、有害菌が増えることで、腸粘膜に慢性の炎症が起きると考えられています。

アレルギー疾患(喘息、アトピー性皮膚炎)

早期の腸内細菌環境の乱れが免疫の過剰反応を招き、アレルギー体質を助長する可能性があるとのことです。

自閉スペクトラム症(ASD

腸脳相関(gut-brain axis)を通じ、腸内細菌が脳機能や行動に影響を与える可能性があり、研究が進行中です。

メタボリックシンドローム・糖尿病

腸内細菌がインスリン抵抗性や脂肪代謝に関わっており、ディスバイオーシスが肥満・2型糖尿病の要因の一つと考えられています。

がん

特定の腸内細菌は、がん免疫療法の反応性を高めることがわかっており、逆に腸内環境が悪いと治療効果が低下する恐れがあります。

 

 

つまり、病気の予防には健康な腸を育てることが必要になってくるので、日々の食生活がカギとなります。腸内環境は、日々の食事習慣に大きく左右されます。以下のポイントを意識するとよいかもしれません。

健康な腸内環境を維持するための食事

  1. 食物繊維の摂取

全粒穀物、野菜、果物、豆類、ナッツなどに含まれる食物繊維は、腸内細菌のエサとなり、SCFAの産生を促進します。これにより、腸内のpHが適正に保たれ、有害菌の増殖が抑えられます。

  1. 発酵食品の摂取

ヨーグルト、キムチ、納豆などの発酵食品には、プロバイオティクス(有益な生菌)が含まれており、腸内細菌の多様性を高め、バランスを整える効果があります。

  1. ポリフェノールの摂取

緑茶、ココア、ベリー類などに含まれるポリフェノールは、抗酸化作用があり、腸内細菌の構成に良い影響を与えるとされています。

  1. 加工食品の制限

高脂肪・高糖質の加工食品や人工甘味料は、腸内細菌のバランスを崩し、炎症を引き起こす可能性があるため、摂取を控えることが望ましいです。

 

また、抗生物質の使用には注意が必要です。

抗生物質は病気の治療に不可欠ですが、同時に腸内の善玉菌まで殺してしまうため、必要なときに適切な指導のもとで使用するのがよいと思われます。

 

最近は「腸活」という言葉もあるように、腸内環境を整えることは、単なる「お腹の調子」だけでなく、全身の健康と深く関わっています。腸内細菌は、日々の食生活がそのバランスを左右します。食物繊維や発酵食品を積極的に取り入れ、加工食品を控えることで、腸内環境を整え、免疫力の向上や病気の予防につながると考えられます。

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