新型コロナウイルスワクチン:スイスチーズ理論上の強力な一手
新型コロナウイルスワクチンの接種が高齢者から、基礎疾患のある方へ、そして職域接種へと進められていきます。ワクチン接種者が増えて行けば行くほど、私たちが日常を取り戻して行く日が近づいて来るはずです。今はまだ我慢の日が続きますが、できるだけ早く、多くの人がワクチン接種を受けることが肝要だと思います。
ワクチンを接種したらもうマスクをしなくても良いですかと言う質問をたびたび受けるようになりました。
確かに今回のmRNAワクチンの効果は高く、アメリカ疾病予防管理センターCDCもワクチン接種を完遂した人では感染リスクを91%減少させるとしています。研究には無症候性感染者も含まれていましたが、ワクチン接種者では感染してもより軽症であり、また鼻粘膜から検出されるウイルス量も少ないと言う事です。つまり、ワクチン接種により、他人に感染させることも少なくなる事が推定されます。
https://www.cdc.gov/media/releases/2021/p0607-mrna-reduce-risks.html
しかしながら、現時点ではワクチン接種後も、感染予防策を継続していく必要があるでしょう。
感染リスク管理を考える上では、スイスチーズモデルが有りますが、これに当てはめてみるとわかりやすいかも知れません。スイスチーズというのは、チーズの中にボコボコ穴が開いているチーズのことで、スイスチーズモデルではそのチーズを薄切りにしたものを何枚も重ねた状態をイメージしています。一枚や二枚を重ねたとしてもどこかの穴は重なるかもしれませんが、枚数を重ねるうちに隙間が埋まっていくため、たくさん重ねればその穴が最後まで通じる可能性は低くなるということです。それぞれのチーズにあたるのは、マスク着用、ソーシャルディスタンス、換気、などがあたります。それぞれの感染予防効果は有用ですがどれも100%ではありません。しかしそれらを組み合わせて実行することで、感染予防効果が上がります。ここにワクチンという強力なオプションが加わったことになります。ワクチンの予防効果が90~95%と100%ではありませんが、この予防効果は大きいです。
なので、ワクチン接種を完遂することで、安全にできる行動が増えると言うことはできるでしょう。先のCDCではワクチン接種者と非接種者での行動を安全か否か、屋外と屋内に分けて分類しています。
たとえば、時々クラスターとして報告される戸外での、他の家族を交えた会食などは接種者ではSafest=最も安全であるが、非接種者ではLess safeです。そして人の多いイベント、ライブ、パレード、スポーツイベントはLeast Safeとなっています。屋内での行動もワクチン非接種者は映画館にいく、室内での合唱、レストランでの食事などがLeast Safeとなっていますが、ワクチン接種者ではすべてSafestです。
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/daily-life-coping/participate-in-activities.html
こうしてみると、ワクチン接種でパンデミック以前に戻れる可能性が大きいことがわかります。実際、ワクチンの進む英国ではパブやレストランの店内飲食、必要不可欠でないショップの営業が認められており、日常生活が戻りつつ有ります。また、先日はコロナウイルス感染での死亡が0だった日もあったと報道されました。ただ、心配なのは最近英国での感染者は増加傾向にある事です。
これが、規制緩和の結果なのかどうか、それとも増えているデルタ株(インド型)のためなのか、検証結果が待たれるところです。
ワクチンは有効である事は確実と思われますが、100%ではありません。NEJMでも、ワクチン接種後屋内の公共スペースでのマスク着用、社会的距離、混雑した屋内環境の回避などの対策を継続することを選択する可能性があることを指摘しています。
今後は十分な数のワクチン接種者の増加とウイルス感染者の推移を見ながら、どの段階でパンデミック前の日常生活に戻していくかを見極めていくことになるでしょう。