緊急事態宣言とN50Y1変異株
新型コロナウイルスの変異株が増加しつつあり、3度目の緊急事態宣言が出されました。海外での変異株の流行の報道が出始めたとき、早晩日本でも同じようになって行くだろうと予想されていましたが、現実のものとなりつつあるようです。
このN501Y変異株ですが、意味としてはウイルスのスパイクタンパク質の501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からY(チロシン)に変わったという意味です。新型コロナウイルスのみならず、様々な微生物や人、癌腫などの塩基配列は解析されたらすぐに国際的な機関に登録され、人類の共有の財産として様々な分野で利用できるようになります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/43740568
新型コロナウイルスについても、塩基配列の解析が継続して行われており、その中で塩基配列(RNAの並び方)が変異したものが見つかってきている状況です。その中で、N501Y変異株、つまりRNAの塩基配列を翻訳してアミノ酸に変えたとき、501番目のアミノ酸がアスパラギンからチロシンに変わっていた株が、いま急激に増えていると言うことです。
生物で習ったかも知れませんが、RNAの塩基3つでひとつのアミノ酸を決めることができます。塩基は4種類で 「Uウラシル」、「Aアデニン」、「Cシトシン」、「Gグアニン」です。懐かしい。
たとえばアスパラギンはRNAで言うとAAUかAACです。で、チロシンはUAUかUACです。つまり、アスパラギンを規定していた三つの塩基の一番最初の「A」が「U」にひとつ変わっただけで、アミノ酸が変わってしまったという変異です。
もともと、蛋白質っていうのはアミノ酸がたくさんつながったもので、アミノ酸は20種類あります。この20種をRNAの塩基のならびで決めている訳ですが、長く連なったアミノ酸はそれぞれのアミノ酸の性質によって、折りたたまれて、立体構造をとるようになります。なので、アミノ酸の性質は重要で、たとえばアスパラギンは親水性でもチロシンは疎水性になっています。
他にも陽性(+)荷電のものもあれば陰性(-)荷電のものもあり、それぞれが引きつけ合ったり、はじきあったりしながら立体構造をとるようになります。つまり、アミノ酸が変わってしまうと言う事は、立体構造が変わる=コロナウイルスのスパイク蛋白の形が変わるということになります。
現時点で心配されているのが、この変異がどのように影響を及ぼすかです。
最近の解析ではイギリス型変異は感染性、重症化率も高くなることは報告されています。
https://science.sciencemag.org/content/372/6538/eabg3055.full
日本での最近の報道では、若年者への感染が目立つと言うものが出てきています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/17ae1a3905f857a07496556336e70bda6ae1ffa5
国立感染症研究所の4月5日時点での変異株の疫学的分析では、変異型は従来型の株と比較して0-5歳と6-17歳の割合(オッズ)が高く、65歳以上の割合が低かったと報告しています。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10279-covid19-40.html
これまでの従来株は、あまり小児には感染しないと言われてきていました。これは、新型コロナウイルスがスパイク蛋白を利用して人に感染するときに、angiotensin-converting enzyme 2 (ACE2)を受容体として利用するのですが、子供ではその受容体の発現が少ないためとも考えられてきました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32432657/
受け手がウイルスをキャッチしてくれないとうまく感染が成立しないと言うことです。
しかし変異型株ではスパイク蛋白の形が変わってきていて、感染しやすくなっているために、多少受け手側が少なくとも効率よく感染できるため、子供にも感染してしまうことが考えられます。
しかしながら、現在の変異株はいまの予防接種が有効な可能性がおおきいです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33442691/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33469576/
子供が感染する場合、子供同士の感染よりも、家族間の大人からの感染も注意が必要になります。
予防接種の進む英国では感染状況が劇的に改善してきている模様です。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210410/k10012967801000.html
緊急事態宣言で、また閉塞感の連続となるかも知れませんが、いまは感染予防策をきっちりとって、感染者数を抑えこんでいる間に、予防接種をすすめていく、という作戦が有効なようです。