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超長寿者の免疫細胞

[2019.11.13]

今年の3月まで学付属病院で、腎癌薬物療法の外来を担当していました。進行性腎癌に対しての薬物療法は結構歴史があるのですが、いわゆる抗癌剤というものはほとんど効果はありません。およそ20年前は、インターフェロンやインターロイキン2という薬剤くらいしかありませんでした。この薬剤は、いわゆる免疫療法という治療法で、実際に腎癌術後の肺転移などによく用いられていました。

 

この治療法ですが、実際には効果が出る人は多くはありません。しかし、私がそのころ担当していた患者さんで、忘れられない症例があります。当時私は、福島市内の病院に勤務していたのですが、その方は大学から腎癌肺転移の治療を依頼され、紹介となりました。当時、私の腎癌の転移に対しての認識は、「一応治療方法はあるが、あまり効果は期待できない」というものでした。しかし、入院したその患者さんにインターロイキン療法を導入したところ、みるみる転移が縮小していき、半年後にはいくつかの転移層が消失していくのを目の当たりにしました。結構衝撃でした。このとき、癌とくに腎癌に対しては宿主の免疫の力が最も重要なのだと思いました。

その後、腎癌における遺伝子発現の結果から、血管伸張因子であるVEGFをターゲットとした治療法がインターフェロンやインターロイキン療法にとって変わられていきました。この頃に、腎癌外来を担当していましたが、確かに一定の効果はあり、腫瘍は小さくなってくるのですが、以前に経験した症例のように転移層がきれいに消失するところまでは行きませんでした。

そして、オプジーボの登場です。一時は分子標的薬が主役だった腎癌の治療は、再び免疫療法が主役となりました。このオプジーボによる腎癌の治療は、以前のインターフェロンやインターロイキン療法より、遙かに協力で、私も外来で見てた患者さんの腫瘍が完全に消失したのを見たとき、非常に驚き、感動すら覚えました。やはり、癌に対しては免疫の力が最も重要なのだと再認識しました。

 

このオプジーボ投与によって、患者さんの体の中で活躍しているのはCD8陽性キラー細胞です。この細胞は、自己と異なる細胞を破壊する細胞です。通常我々の体を校正している細胞は「自己」であるという証明の蛋白を持っています。白血球だとHLAと呼ばれるので聞いたことあると思います。それぞれの細胞にはMHCという蛋白が発現していますが、細胞内に異質の蛋白があると、MHCが抗原を提示し、それはもはや「自己」の細胞では無いとアピールします。これをCD8陽性キラー細胞が察知して、細胞を破壊していく訳です。

 

癌細胞では、遺伝子変異から通常出ない蛋白が合成されるので、「自己」でない細胞と認知される訳です。これは、ウイルス感染症でも同じです。以前書いたように、ウイルスは細胞内に侵入し、ウイルス蛋白の合成を開始します。なので、細胞はもはや「自己」では無いとして、MHCにウイルス蛋白を提示します。するとCD8陽性キラー細胞が察知して、ウイルス感染細胞を破壊していくという過程で、感染症が治っていくのです。

 

 

今日の朝、NHKで110歳以上の超長寿者が特殊なT細胞である「CD4陽性キラーT細胞」を血液中に多く持つことを発見したと、報道していました。この研究では110歳に到達した超長寿者7人と50~80歳の5人から採血し、血中の免疫細胞を解析。その結果、110歳以上の超長寿者では、T細胞の構成が50~80歳と比べて大きく変化しており、細胞障害分子を発現するT細胞(キラーT細胞)の割合が高くなっているとのことです。そして通常は少量しか存在しないCD4陽性キラーT細胞が高い割合で存在していたとのことです。PNAS first published November 12, 2019 https://doi.org/10.1073/pnas.1907883116

 

キラー細胞が、癌細胞やウイルス感染細胞を駆逐する細胞であることを考えると、キラー細胞の数が多いことで、長生きするというのは不自然ではありません。ただ「CD4陽性キラーT細胞」の具体的な役割はまだはっきりしていないようで、今後の研究結果が待たれるところです。

大学では腎癌の外来や研究をし、こういった免疫の面白さにとても興味をひかれておりました。研究材料としては解明しなければならないことが、尽きること無く、とても面白い分野だと思います。今後、大学の後輩たちが、少しでも癌免疫の研究を進めていってくれたら良いなと思っています。

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