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イベルメクチンに効果は特に無しNEJM

[2022.04.03]

新型コロナウイルスのパンデミック当初、我々を脅かしたのは、その感染性と重症化率の高さですが、最も不安にさせたのは、有効な薬剤や予防するワクチンがなかったことです。インフルエンザウイルスも、肺炎や脳炎を起こして致死的な予後をたどることもありえますが、インフルエンザウイルスに対してはワクチンがあり、タミフルのような有効な薬剤がすでにいくつも開発されていました。しかし、新型コロナウイルスについては全く未知のウイルスで、対抗する武器を持っていなかったのが我々を不安にさせる要因でした。

 

しかしながら、すぐに新たな薬剤が市場に出てくると言う訳にはいきません。我々が薬を使えるようになるまでは、製薬会社さんが、膨大な開発費をかけて、臨床研究を経て、それは長い年月を経てやっと市場に出てくるわけです。だから、発売した当初は先発品として特許が認められているのです。特許が切れてしまった後は、いわゆるジェネリック薬品となって、いろんな会社が安く薬を製造販売できるようになるんですね。ジェネリックを用いるのは財源に限りのある医療費抑制のためにはとても良いですが、最初に開発した製薬会社はそれまでに何億~何十億円と開発費をかけている訳ですから、一定期間特許で守られなければ開発する気が失せてしまいますよね。

 

有名なペニシリンは、そのアイディアは細菌培養しているシャーレに偶然入ったカビが細菌の増殖を抑制しているところから発見されています。もちろんこれでペニシリンができたわけでなく、まずはカビからそのペニシリンを分離し、精製することが必要になります。その後は動物実験も入ります。動物にさえも害があるようなら無論人に用いる事はできないです。動物実験でうまくいったとしても、今度は人に対しての研究が必要です。まずは安全性の確認や、投与量の設定なども実際の人で研究するわけです。そして安全であったなら今度は実際の疾患を持つ人に対して投与するのですが、これもきちんと群分けして、効果ありと判定されなくてはないのです。お金だけでなく、時間もかなりかかるのですが、どこかでつまずいたら、それまでいくら開発費をかけてあったとしても、おじゃんになってしまうのです。

 

そのため、今回の新型コロナウイルスのパンデミックのとき、その致命率の高さから、早急な薬剤開発が望まれ、まずはドラッグリポジショニング、つまり今現在開発が終了しており、すでに市場に出ている薬の中で、「実はコロナにも効くじゃん」という薬を探すことがはじまったのです。そのときに有名になったのがイベルメクチンとアビガンでした。イベルメクチンは元々疥癬の治療に使われる薬剤でした。アビガンは新型インフルエンザに対して開発された薬でした。このうちイベルメクチンは基礎実験でコロナウイルス増殖を抑制すると言う論文が出たことから、今回のパンデミックを終息させる武器になるのではないかと、私も含め多くの人が期待を持って見守っていました。

 

3月30日のNEJMで、新型コロナウイルス感染初期にイベルメクチンを投与した結果の論文が掲載されていました。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2115869?query=featured_coronavirus

 

この研究は2020年7月からブラジルにおいて開始されており、感染初期7日以内にイベルメクチン400 μg / Kgを1日1回3日間またはプラセボの投与を受けるようにランダムに割り当てて行われました。結果としてイベルメクチンによる治療は、Covid-19による入院率の低下や、救急科における長期入院の発生率の低下などにはつながらなかったとの結論でした。

 

これまで、イベルメクチンの効果については、議論がありつつも定まったものではありませんでした。考えると、効果が歴然であればこの様な議論はもとから出なかったのかも知れません。しかしながら、これまで発表されたイベルメクチンの論文の内、あるものは質が低いものであったり、またあるものは取り下げられたりしてきて、中程度以上の質であると考えられる試験を調べた場合には、イベルメクチンは治療効果をもたらさないと結論付けられました。今回のNEJMの論文はイベルメクチンは有用ではなかったと結論つけられています。

 

日本発のイベルメクチンが一時は脚光をあびたものの、結果として効果は無かったこととなるのは日本人としては残念ですが、いまは新型コロナウイルスに対抗する武器-ワクチンといくつかの薬剤―を我々は持っています。今はこれらを最大限に利用し、今後またさらに有効で安全な薬剤が出てくるのを待ちたいところです。そして、願わくはさらに有用な新薬が日本の製薬会社から出てきて欲しいと思っています。

 

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