100%はあり得ない、3.11もコロナワクチンも
明日、3月11日で東日本大震災から10年が経ちます。福島県に住んでいる我々にとって、10年前はまさに戦いでした。日常生活に必要な物資を入手するのも困難であったとき、原発事故はさらに大きな衝撃を我々に与えました。
原発の事故がおきるずっと前に、もう、いつだったか忘れてしまいましたが、あるコマーシャルが福島県で流れていました。詳細に記憶している訳ではないのですが、それは「原子力は水の壁、それを入れる容器の鉄の壁、建物のコンクリートの壁、そして人の壁に守られています」というような文言で、頻繁に流れていました。そのときはあまり意識せず、何故こんなCMを流しているんだろうと思っていましたが、今考えれば、原発に反対する人も多かったことから、原発は安全ですとアピールし、イメージを上げるためのものだったのだろうと思います。原発は安全・・・そんなのは幻想であると言うことが図らずも証明されました。絶対安全等と言うことはあり得ない。ただ、「人の壁」だけは本当に最後までこわれなかったと今も思っています。
昔好きだった漫画「美味しんぼ」での鮭対決もずっと記憶に残っています。漫画本は今は手元にないのでこれも記憶が定かではないのですが、鮭の料理として山岡が生の鮭を出してしまい、海原遊山に怒られた回です。鮭はアニサキスなどの寄生虫の可能性があり、生食すべきではないということです。そこで、山岡は全ての切り身をすべて大学教授(?)にチェックしてもらい、絶対安全であると主張。それに対して海原遊山は「100%無いと言えるのなら、そのものはすでに科学者ではない」と言い切りました。(言葉の詳細はあやふやです)
この台詞は自分の心の中にずっと残っていて、大学で研究しているときも、患者を診ているときも、常に心の片隅においていました。
人気の漫画「ブラックジャック」で彼の師である本間丈太郎が彼に残した言葉「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね・・・」も子供の頃からずっと心に残っています。絶対に失敗しない医師ブラックジャックが、本間丈太郎を救えなかった時に残していった言葉です。「100%大丈夫」と言い切ることはできない。しかし、だからこそ100%にできる限り近づける様に常に努力しなければならない。そう思いました。
新型コロナワクチンが接種され始めていますが、報道によると9日までに国内で接種を受けた人は計10万7558人。そのうちアナフィラキシーと報告されたのは17人とのことです。10万人に対して17人はやや多い数のように感じますが、詳細な調査の結果まちです。
ワクチンが進んでいる米国での報告では2020年12月14~23日に、189万3360件の接種が実施され、うち21件のアナフィラキシーが起こっていたと報告しています。
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7002e1.htm
ワクチンで有害事象が起きたとされたのは4393例(0.2%)で、うち、175例がアナフィラキシーが疑われ、その中で21例がBrighton Collaboration case definition criteriaに合致するアナフィラキシーと診断されたようです。結果、アナフィラキシーは100万回あたり11.1とのことです。日本での10万件あたり17例の報告は、米国の189万あたり175例の率とほぼ一致しているように思います。日本の17例のうち前出のクライテリアに当るアナフィラキシーはもっと少ない可能性もありますが、逆にこのくらいの確立でアナフィラキシ様の有害事象が出るのかも知れません。
米国におけるモデルナ社を含めた13,794,904回の接種での有害事象は6,994例とのことです。うち、重篤なものは640人、その中で113例は死亡例であるとのことです。死亡例と書かれると心配ですが、日本でも報道がありましたが、因果関係があるかどうかと言うことが重要です。米国でも調査は継続中のようですが、16例には心臓病、癌、脳卒中、肺塞栓症の可能性が指摘されているようです。今後の解析待ちでしょう。
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7008e3.htm
アナフィラキシーについて、日本アレルギー学会がガイドラインを出しています。それによると日本におけるアナフィラキシーの既往の頻度は小学生0.6%、中学生0.4%、高校生0.3%です。米国では1.6%、欧州では0.3%だそうです。こう見ると意外に多い事がわかります。
https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/anaphylaxis_guideline.PDF
こうして考えてみると、予防接種でも、薬でも、アナフィラキシーは一定の確率である事は覚えておかなければなりません。今も時々コロナのワクチン打っても大丈夫ですか?と聞かれます。
無論、絶対大丈夫ですと言うことはできません。ただ、世界中で感染者が多く発生し、命を落としてしまう人がいまだ絶えることのない現在、そのような事態を少しでも早く収束させ、感染リスクを可能な限り低くさせるために、この感染症で亡くなる人を100%なくすためにワクチン含め、抗ウイルス薬の開発など、医学会は努力を続けていかなければなりません。「これでもう100%大丈夫」などと決して思わずに。