ワワクチン個別接種、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、J&Jワクチン
5月24日から郡山市でも高齢者への個別接種が開始されています。ワクチン接種が進んで行くことが期待されますが、小さなクリニックではなかなか苦労するところが多いです。今回のワクチンの場合接種後15分の経過観察時間が求められているため、接種後待合室で待っていただくこととなりますが、これは待合室の広さにかなり左右されてしまいます。そこにいつも通院されている患者さんが加わると、広いスペースが確保されているクリニックでないと、待合室はあっという間に一杯です。さらに今回のワクチンは、調整してから数時間以内に接種しなくてはならないことに加え、ワクチンの数が限られており、できるだけ破棄せず使用することも求められています。なので接種時間枠をあまり遅い時間に設定すると、万一接種できない人やキャンセルがあったとき、替わりの人を見つける時間が無いことも予想されているので、本当に頭が痛い問題です。
さて、ワクチンについては最近、モデルナ社とアストラゼネカ社のワクチンも特例承認され、確保されたとのことでした。
このうちモデルナ社のワクチンは、現在われわれが接種しているファイザー社のワクチンと同じmRNAワクチンです。米国ではモデルナ社のワクチンも多く使われていると思われます。ファイザー社のワクチンと比較して効果の違いはほとんど無く、モデルナ社のワクチンでの発症予防効果は94%とファイザー社のワクチンと互角の効果です。一番の違いは保存条件であり、-20度での保存から冷蔵庫に取り出した後最大30日間使用可能である事でしょう。今のファイザー社の5日間と比較するとその点については使いやすいといえます。今のファイザー社のワクチンの保存期間が5日間しかないために、個別接種の時、週に2回注文と配送がある形になっています。そのためスケジュール管理が煩雑であり、頭を悩ませています。1ヶ月保存可能な場合、その点が改善されることは期待できます。ただ、ワクチンは2回接種であり、1回目のワクチンと同じ製品を使うことが求められますので、混合されてしまわないように、現時点では、施設によって使い分けるようにした方がいいかもしれません。
さて、アストラゼネカ、J&J社のワクチンは少し毛色が異なってきています。このワクチンは遺伝子の運び屋としてアデノウイルスを用いています。このウイルスを使うというのはウイルスの生活環を考えるととても理にかなっています。
ウイルスは元々生物としての活性はないのですが、細胞に「吸着」したあと、細胞内に「侵入」します。その後「脱殻」といい、ウイルスの核酸(DNAもしくはRNA)を細胞内に解き放ちます。すると細胞内ではウイルスのmRNAを作り、それを元にウイルス蛋白を合成します。最終的に多くのウイルスが合成され、細胞から出て行き次の細胞に感染していきます。この、ウイルスは細胞内にDNAやRNAをいれて、蛋白を作り始めると言う性質を利用して、新型コロナウイルスのスパイク蛋白を作らせてしまおうというのがアストラゼネカ社のワクチンです。
元々、ウイルスというのは、その性質からこれまでも遺伝子治療に用いられてきました。
アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症は人間ではじめて遺伝子治療が行われた疾患です。
https://www.shouman.jp/disease/details/10_01_003/
欠損した酵素を作る遺伝子をウイルスを用いて導入してしまおうと言う治療で、その後、癌の治療にも遺伝子治療が試みられてくるようになりました。日本でも岡山大学が癌抑制遺伝子のp53を発言するアデノウイルスベクターを作成し、研究をしています。この岡山大学ですが、私が福島赤十字病院に勤務していたころ、岡山大学の教授、公文先生は感染症の大家でした。私は大学院時代に感染症の研究をしていたこともあり、公文教授のことはよく存じ上げていたのですが、ある日、福島での公文先生の講演において、前立腺癌に対するアデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療の話をされており、大変驚いたことを今でも覚えています。ウイルスにこういう使い方があるんだと、知らなかった自分を恥じ、もう一度ウイルスの勉強をしたいと思い、大学に戻るきっかけとなった出来事でした。
この、コロナ渦と言われる時代になって、またアデノウイルスによるワクチンが脚光を浴びていること、個人的にとても感慨深いものがあります。
とはいえ、このアデノウイルスワクチンには、少数ですが、血栓症の発症が報告されておち、一時接種が中断されたことが有りました。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2104882
この副反応が生じたのは、主に50歳未満の女性であり、FDAは、18〜49歳の女性において、接種100万回当たり13例に血栓が生じる一方、COVID-19による死亡が12例、入院が657例回避できると推算しているようです。
以前から参考にしていて、今もアップデートされているNEJMのFAQでも、アデノウイルスワクチンについては、50歳未満の女性にはmRNAのワクチンを推奨する可能性を指摘しています。一方、米国CDCでは、mRNAワクチンで重度のアレルギー反応を示した人においては、厳重な観察の元、二回目はアデノウイルスワクチンを投与することを推奨しています。
https://www.nejm.org/covid-vaccine/faq
いずれにせよ、現時点ではまずはmRNAワクチン接種を進めていくのが良いと考えます。