老人ホームにおける抗菌石鹸使用と鼻腔除菌の効果
老人ホームへの入居者は、感染症や感染症関連疾患のリスクが高い集団です。それ故、コロナ渦の状況においては、ご家族の方も面会できない、もしくはオンラインでの面会であったりしたかと思います。無論、ワクチンがない時期は特に、コロナウイルスの持ち込みやクラスターの発生を防ぐためにやむを得ない状況だったと思います。ただ、入居者はそのような持ち込み以外にも様々な感染症のリスクにさらされており、常に予防策を考えておくことが重要です。
先日のNEJMの論文では、米国の老人ホームの入居者において、クロルヘキシジン消毒剤洗浄剤を使用した入浴用石鹸への切り替えと、鼻ヨードホールにより、感染による病院への搬送のリスクが大幅に減少することが示されました。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2215254?query=featured_home
論文では合計 28 の老人ホームでランダム化を行い、14 が除菌グループ、14 が通常ケア グループに割り当てられた、合計 28,956 人の入居者がいる老人ホームからデータを取得しています。
これらのデータからは、100 床の老人ホームにおいて、月あたり 1.9 件の感染症関連入院を防ぐことができることを示唆していました。また、これらの介入が原因にかかわらず入院のリスク減少と多剤耐性菌保有の減少につながっているとされています。
多剤耐性菌の増加は、世界的にも問題になっており、厚労省も薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを策定しております。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
特に抗生剤の使用にあたっては「適切な薬剤」を 「必要な場合に限り」、 「適切な量と期間」使用することを徹底することとなっております。AMRアクションプランでは主に呼吸器感染、消化器感染における抗生剤の過剰使用を警告しています。
しかし、これは人に対してだけでなく、動物に対しての抗生物質使用量も制限されることも重要な作戦のひとつになっています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
泌尿器科領域の感染症である、尿路感染症や性感染症でも抗生剤は主力の薬剤となっています。
膀胱炎の場合大腸菌が主な起因菌ではありますが、風邪などの時に安易に抗生剤を処方してもらってくる人の場合や、海外の方で、OTCとして抗生剤を購入して気軽に内服している人などは、腸内細菌としての大腸菌が既に耐性菌となっている場合が有ります。こういった方の膀胱炎の場合、通常の抗生剤では改善せず、以外に苦労することも経験します。性感染症である淋菌もいまや内服の抗生剤に耐性を示すのがほとんどです。
やはり、感染症に関しては、「抗生剤を内服すればいい」、と言う考えではなく、可能な限り予防策を徹底し、万一感染症を発生したときの切り札として抗生剤を使うと言う考え方が良いのでしょう。