日本性感染症学会に行ってきました
12月2日(土)3日(日)は日本性感染症学会が東京で開催されていました。今回は久しぶりに現地参加型の学会であり、開催場所の東京であることから、参加してきました。
学会内容としてはやはり今急増している梅毒のセッションは多くの人が関心を持って聴講していましたが、他にも尿道炎や、各検査法、Mポックス、性教育など多彩な分野に関する講演、演題が有りました。
その中で、今回興味があったのが、梅毒の母子感染についてです。
梅毒感染者数は男性では20~50代で増加中ですが、女性に関しては20代が突出して
増えています。この年齢で増えていると言うことは実は梅毒合併妊婦が増える可能性が高いと言うことです。事実、。日本産科婦人科学会によると2012 年~2016 年の5 年間で約160 例の梅毒合併妊婦が報告され、そこから20 例の先天梅毒児が発生していたとのことです。さらに梅毒合併妊婦83例の中で母子感染は18 例(22%)で起こっていたとのデータもあるようです。
先天梅毒の児が生まれてしまうと生後数ヶ月以内に水疱性発疹、斑状発疹、丘疹状の皮膚症状、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎、鼻閉など、晩期先天梅毒では、生後約2年以降にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などを呈するとされ、障害が残ることが有ります。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/392-encyclopedia/465-syphilis-info.html
通常妊娠時に梅毒の検査は行われていますが、中には検査してなかったり、すり抜けたり、また、妊娠後に感染する等があるようです。
通常の梅毒感染ではペニシリン投与で根治可能ですが、母子感染に関しては完全に防ぎきることができないため、治療法の確立は急務です。
このように妊娠中に感染すると胎児に影響を引き起こすことがある病気を、我々は大学時代には「TORCH(トーチ)症候群」と習っています。TはToxoplasmosisトキソプラズマ、Oはother agents=その他で梅毒など、RがRubella風疹、CがCytomegalovirusサイトメガロウイルス、HがHerpes simplexヘルペスウイルスの略です。梅毒がその他に入っているのは、適度な略語ができなかったからでしょうか。まあ、頻度としては比較的少ないほうですが、今後増加していく可能性もあり注意が必要でしょう。
TORCH症候群の中ではサイトメガロウイルスによるものが最も多いと推定されます。サイトメガロウイルスはほとんどの人は幼少時に感染していることが多く、症状もなく経過していますが、まれに妊娠時に初感染をおこしてしまうと児に小頭症、肝脾腫、難聴や精神遅滞などの障害が残ることが有ります。
サイトメガロウイルスの先天感染については、過去に福島医大耳鼻科の小川先生の論文に共著者として載せていただいた思い出があります。日本人は「臍の緒」をとっておく事が多いので、この臍の緒からDNAを抽出してサイトメガロウイルスの検出や遺伝子変異などの検出を施行した論文です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17299707/
母子感染の研究は様々な研究室で行われていると考えます。生まれてくる児に感染症によって障害が残らないような日が早く来ることを望みます。