オメガ3脂肪酸と前立腺癌
EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といういわゆるオメガ3脂肪酸がけんこうに良いことは広く知られているところです。これらは主に、魚介類(魚および甲殻類)に含まれていますが、ほかに異なる種類のオメガ3であるALA(αリノレン酸)は、亜麻仁油、大豆油、キャノーラ油などの植物油や、チアシードや黒クルミなど一部の植物由来の食物にも含まれています。
厚労省の『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』のHPにはオメガ3脂肪酸サプリメントの有用性についても以下のように書かれています。
- オメガ-3サプリメントを摂取しても心疾患のリスクは低下しない。しかし、魚介類を1週間に1~4回食べる人は、心疾患で死亡する可能性が低くなる。
- 高用量のオメガ3脂肪酸は中性脂肪値を下げる可能性がある。
- オメガ3サプリメントは関節リウマチの症状緩和に有効である可能性がある。
- オメガ3サプリメントが、眼疾患の加齢黄斑変性症の進行を遅らせるとする結果は示されていない。
- ほとんどの研究では、エビデンスが決定的ではなかったり、オメガ3脂肪酸の有益性が示されなかったりしている。
https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/10.html
オメガ3脂肪酸についてはサプリメントをとる場合とと魚介類を積極的にに摂取する場合では異なる結果が出る可能性はありそうです。
このHPには前立腺癌について「オメガ3脂肪酸が前立腺がんのリスクに影響を与える可能性があるかについては、相反するエビデンスがある。」と書かれています。
オメガ3脂肪酸と癌に関しては昨年も米国からの研究論文で出ていました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39417685/
この研究は大規模前向きコホート研究で、英国バイオバンクから253,138人が参加しまし、平均12.9年間の追跡調査で、29,838人ががんと診断されています。血漿中のオメガ3およびオメガ6 濃度は、総脂肪酸に対する割合(オメガ3%およびオメガ6%)としています。
研究の結果オメガ6%およびオメガ3%はいずれも、全体的ながん発生率と逆相関、つまりオメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸の血漿濃度が上昇すると全がんリスクが低下する結果でした。
この中で、オメガ3%は4種類のがん(胃がん、結腸がん、肝胆道がん、肺がん)を減少させる一方で、前立腺がんとは正の相関、つまりリスクが増えてしまうということが明らかとなりました。
この論文だけだと、オメガ3脂肪酸は前立腺に対しては良くないものだとなりますが、一方今年のASCO GUでは監視療法中の前立腺癌にはオメガ3脂肪酸は良い効果が期待できそうだとの発表がありました。
https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO.24.00608
前立腺癌のなかで低リスク前立腺癌に対しての監視療法は標準治療の1つとされています。新しい前立腺癌ガイドラインでは中間リスク前立腺癌のうち,Gleason スコア 3+4 以下陽性コア本数2本以下,PSA 10ng/mL 以 下,PSAD 0.2ng/mL/mL 未 満,cribriform や intra -ductal carcinoma を含まない,のすべてを満たす患者には監視療法を行うことを弱く推奨するとしています。
監視療法については、むろん何もしないで経過を見ているだけではなく、定期的PSAチェックなどしながら、手術や放射線療法などによる副作用や医療費を削減しつつ、根治機会を失わないように監視していく方法です。
そこで今回のASCO GU2025での発表では前立腺癌にて監視療法している患者において高オメガ3・低オメガ6脂肪酸食と魚油カプセルの併用が、前立腺生検における増殖指数(Ki-67)を1年間にわたって低下させるかどうかを検証しています。その結果、Ki-67値について、介入群ではベースラインの1.34%から1年後には1.14%となり約15%減少していましたが、対象群ではベースラインの1.23%から1年後には1.52%となり約24%上昇していました。結果としてオメガ3脂肪酸を多く含み、オメガ6脂肪酸を少なく含み、魚油を1年間摂取した食事は、前立腺がんの進行、転移、そして死亡のバイオマーカーであるKi-67指数の有意な低下をもたらしたとのことです。
オメガ3脂肪酸の前立腺癌における効果はなかなか一定していませんが、食品からとるのか、サプリでとるのかによっても異なる可能性はあるかもしれません
。
とはいえ、厚労省も「相補(補完)・代替療法は近代西洋医学と組み合わせることが重要です。治療で完全に治る病気も、治療の時期を逸すれば治らなくなります。」「必ず主治医に相談してください。相談の結果、「相補(補完)・代替療法を利用しない」という判断もあってしかるべきです。」「「天然物質、食品・食物=安全」ということではありません」としています。
なにか病気になったとき、サプリをはじめとした代替療法に頼りたくなるひとも多いのですが、それに頼りすぎることなく主治医と治療方針をきちんと相談確認することが重要と思います。