帯状疱疹ワクチンと認知症
現在郡山市でも、高齢者帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まっています。帯状疱疹とは、子どもの頃にかかった水ぼうそうウイルスが、体内に潜伏したまま、免疫力が落ちたときに再活性化して発症します。70歳代で発症する方が最も多く、典型的には体の左右どちらかに、帯状に痛みを伴う水泡が出現、ピリピリとした痛みを伴う赤い発疹が特徴で、特に高齢者では「帯状疱疹後神経痛」といった、長引く強い痛みに悩まされることもあります。
帯状疱疹は予防が非常に重要です。そのため、50歳以上の方を対象に「帯状疱疹ワクチン」が推奨されています。
今回は65歳になる方が対象で(ただし、令和7年度から令和11年度の5年間に限り、経過措置として、70歳以上の方も対象)、帯状疱疹ワクチン接種費用の一部が助成されることになっています。
帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹発症予防に有効ですが、近年帯状疱疹ワクチン接種が認知症の発症リスクを抑制する可能性があることが報告されています。
2024年のNature Medicineでは生ワクチンと組み換えワクチン(シングリックス)切り替え時を利用してワクチンの種類による認知症リスクを比較しています。
その結果、その結果、組換えワクチンは、接種後6年間の認知症リスクが有意に低いことを示していました。組換え帯状疱疹ワクチンは、高齢者に使用されるインフルエンザワクチンや破傷風・ジフテリア・百日咳ワクチンよりも認知症リスクが低いことが示されました。この効果は男女ともに認められましたが、女性の方がより低下していました。
https://www.nature.com/articles/s41591-024-03201-5?fromPaywallRec=false
生ワクチンについても2025年4月、医学誌『Nature』に掲載された研究によると、帯状疱疹ワクチンの接種が認知症の発症リスクを約20%低下させる可能性があることが示されました。この研究は、ウェールズにおけるワクチン接種の年齢制限を利用した自然実験natural experimentで、280,000人以上の高齢者の健康記録を分析したものです。その結果、ワクチン接種を受けた人々は、受けていない人々に比べて、7年間の追跡期間中に認知症と診断される確率が3.5ポイント(相対的に20%)低かったと報告されています。特に女性において、この保護効果がより顕著であることが示されました。
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08800-x
帯状疱疹ウイルスは、神経系に潜伏し、免疫力の低下により再活性化することがあります。
この再活性化が、慢性的な炎症や神経損傷を引き起こし、認知症のリスクを高める可能性が指摘されています。そのためその機序は完全には解明されていませんが、帯状疱疹の発症を防ぐことで、ウイルスが神経細胞に与える慢性的なダメージを防げる、ワクチンによる免疫刺激が、脳の免疫機能(ミクログリア細胞など)を活性化し、認知症の進行を遅らせる可能性などが指摘されています。つまり、帯状疱疹ワクチンは、単なる感染症予防にとどまらず、「脳を守るワクチン・認知症発症を抑制する」としての期待もあるかもしれません。
認知症発症については今後ワクチン接種が進む日本でも解析される可能性がありますが、それにかかわらず帯状疱疹の発症を防ぐために対象の方は接種しておくことをお勧めします。