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生活習慣病と歯周病

[2022.12.14]

今日は、福島県白河市の県南保健福祉事務所における令和4年度県南地域市町村歯科保健研修会で講演を行ってきました。講演の演題は「生活習慣病と歯周病」で、歯科衛生士さんや、歯科保健担当者の方々を対象にお話してきました。

 

泌尿器科の医師が歯周病の話?と誰もが思うでしょうし、自分でもそう思うのですが、実はこのお話は以前私が勤務していて、来年には閉校となってしまう県立総合衛生学院の歯科衛生学科の学科長で、現在福島県の健康福祉部健康増進課・専門医療技師の方からお話をいただいた関係でお受けすることとしました。

 

ただ、実際は生活習慣病のお話は衛生学院時代にもしており、また、生活習慣病の理解において重要な炎症性サイトカインIL-6は福島医大に在籍していたときの私の中心的な研究テーマであり、さらに歯周病をきたす微生物の構成成分であるLPSは私の大学院時代の研究テーマでした。そのため、歯周病については知っている事は少ないですが、細菌感染から炎症性サイトカインと生活習慣病との繋がりを説明しお話しすることとしました。

 

実際に文献を検索していると、歯周病と全身慢性疾患との関連を調べた論文は数多くあります。たとえば歯周病は慢性感染症であるため、感染巣から放出されるTNFαがインスリン抵抗性を誘導し、糖尿病発症の原因のひとつになり得ると言うものです。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9287060/

 

 

基本的に歯周病はPorphyromonas gingivalis ポルフィロモナス・ジンジバリス、Tannerella forsythia タンネレラ・フォーサイシア、Treponema denticola  トレポネーマ デンティコーラ、Aggregatibacter actinomycetemcomitans アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス、Prevotella intermedia プレボテラインターメディア 等のグラム陰性菌による慢性感染症と考える事ができます。このグラム陰性菌感染感染では、細胞壁にあるLPS・Lipopolysaccharideが強い免疫原性を持っており、マクロファージのTLRトールライクレセプター(受容体)に認識され、IL-6やIL-8、IL-1βなどの炎症性サイトカインが分泌されます。基本的に炎症という状態は慢性疾患の原因となります。

論文上は歯周病が関連していると考えられているのは、メタボリック症候群、心疾患、糖尿病、高脂血症、悪性腫瘍、鬱病など多岐にわたります。無論歯周病になるとがんになったり鬱病になったりと言うことではないのですが、歯周病による炎症性サイトカインの分泌は、それら生活習慣病の病勢に何らかの影響を与えている可能性が示唆されます。

実際、最近のメタアナリシスの論文で歯周病は、全死因死亡率および心血管疾患による死亡率、がんのリスク増加と関連していたと報告されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32866427/

 

 

また、歯の数と転倒率との研究では20歯以上の者と比較して、19歯以下で義歯未使用の者は、性、年齢、追跡期間中の要介護認定、抑うつ、主観的健康観、教育歴の影響を考慮しても、転倒リスクが2.50倍高いと言う報告もあり、歯の健康と体幹保持の関連性も指摘されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22855628/

 

 

さらにはアルツハイマー病発症前には歯周病の原因菌に対する抗体が上昇しているなど何らかの関連がある事が示唆されており、興味深いところです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4270775/

 

現在、国民皆歯科検診が検討されているようです。この目的は歯を健康に保ち続けることで、長寿を目指すために重要な、食事、運動、メンタルヘルスを保つ一助となるようにしていくことと考えられます。歯周病を予防すれば生活習慣病にはならないと言う意味ではないのですが、少なくとも悪化して行く事を抑制する可能性はあると考えられます。

歯を健康に保つ事は決して悪いことでは無いと、誰もがわかると思いますので、歯科検診は積極的に受けていく事が重要になってくると思われます。

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