5類になって1ヶ月、インフルエンザの小流行
新型コロナウイルス感染症が、感染症法上5類感染症に位置付けられる様になって、おおよそ1ヶ月が経過しました。日常生活もコロナ前の状況にほぼ戻っている印象です。
感染症法は医師や看護師の国家試験に出題されることもある分野で、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする。」とされています。1ヶ月以上前は新型コロナウイルス感染症は2類相当とされていましたが、もともとこの2類感染症にはコロナウイルスによるSRAS、MERSが入っています。その他に急性灰白髄炎(ポリオ)、結核、ジフテリア、鳥インフルエンザ(H5N1)、鳥インフルエンザ(H7N9)が入ってます。
その上のランク、1類感染症はもっと致死率の高い感染症、エボラ出血熱、クリミアコンゴ出血熱、痘瘡、南米出血熱、ペスト、マーブルグ病、ラッサ熱が入っています。1類感染症は時々アフリカで見られますが、致死率が高いため、かえって局所的な流行で終わることが多いです。しかし、万一これらの感染症が入ってきてしまうと、新型コロナウイルスどころの話ではなく、間違いなくパニックになるでしょう。エボラ出血熱をモチーフとした、1995年ダスティンホフマン主演の映画『アウトブレイク』を見ていただけると、どんな事態になるか、具体的に想像できます。この映画では、米国政府は感染症が発生した街そのものを、特殊爆弾で消滅させるよう命令します。短い時間にいろいろ詰め込まれている映画なので、突っ込みどころは多いのですが、こういった1類感染症レベルが入ってきたらとんでもないことになると言う事はわかると思います。
こういう重大な感染症はもちろん全例報告されなければならなりません。新型コロナウイルス感染症もこれまで全例報告されていましたが、今度は定点からの報告となります。
現時点での新型コロナウイルスの定点あたりの報告数は第20週(5/15~5/21)は4.46、第21週(5/22~5/28)は3.85、第22週(5/29~6/4)は3.54となっています。今後はこの定点あたりの報告数で流行具合を判断していくこととなります。現時点では流行入りとなる定点あたりの報告数の詳しい数字は決められてはいませんので、当面は感覚として感染者数の増減を見ていくことになるかなと思います。
こういう報告は各自治体から発表されますが、福島県の最近の報告からは、郡山市でのインフルエンザウイルス感染の流行が話題となっています。郡山市の第21週(5/22~5/28)においては定点あたりの報告数が10人を超えています。インフルエンザウイルス感染は、1機関あたりの報告数が1以上で「流行入り」、10人以上で「注意報」、30人以上で「警報」となります。この人数は新型コロナウイルス感染に当てはめることはできませんが、定点あたりの報告数で言えばインフルエンザ感染の報告数の法が上回っています。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/578501.pdf
現時点でのインフルエンザウイルス感染の流行は、季節外れです。これまでインフルエンザウイルス感染は冬に流行していました。何故、このような時期に流行が起こっているのかという原因についてはっきりとした答えはありません。考えられることとしてはまず、人の流れが活発化してきたことは上げられると思います。
事実、新型コロナウイルス感染症によって人流がほとんど無かった2020年や2021年の12月から3月までの冬にはインフルエンザウイルス感染症はほとんど見られませんでした。
インフルエンザウイルスは飛沫感染するウイルス感染なので、もちろんマスク着用は有効でした。現在、マスク着用は個人の判断となっていますので、マスクをしている人も徐々に少なくなっています。これもインフルエンザウイルスが入ってきたときには感染が広がる誘因にはなるでしょう。
また2年ほどインフルエンザウイルス感染がほとんど抑えられてたことで、2冬連続で感染者はほとんど無く、またそのためかインフルエンザワクチンを接種する人もかなり減っていました。インフルエンザワクチンも、毎年違う株のワクチンではあるのですが、接種継続することにより、様々な中和抗体価が維持されることが報告されています。なので、流行の有無にかかわらず接種していることが免疫の維持に有用なのですが、それが中断されいわゆる集団免疫が低下したと考えられます。
これらの要因からインフルエンザ感染が増えてきたと考えるのですが、我々のできることはこれまでと変わりありません。
新型コロナウイルス感染における、学校でのマスク着用の効果を検討した論文が出ています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37200241/
この論文ではスイスの2つの中学校において、マスク着用や空気清浄機の有無によるエアロゾル濃度の変化や新型コロナウイルス感染リスクの変化を検討しています。
結果としては、介入なしの場合の 1 日平均エアロゾル数濃度は 177 ± 109 1/cm3、マスク着用義務により 69% 減少し、空気清浄機使用により 39%減少しました。 マスクの義務化は、空気清浄機よりもエアロゾル濃度の大幅な低減と新柄コロナウイルス感染の低減に関連していたと報告しています。
この事はもちろんインフルエンザウイルス感染にも言えることですので、インフルエンザウイルス感染が流行に入ったならこれまで通りマスク着用することは、特に教室などの区切られた空間では有効な方法になってきそうです。