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もう一つの抗新型コロナウイルス薬候補となるか:イベルメクチン

[2020.04.06]

オーストラリアのグループがAntiviral Researchに、イベルメクチンが新型コロナウイルスの増殖をin vitroで強く抑制したことを報告しました。

 

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166354220302011#bib4

 

イベルメクチンは、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生が発見したアベルメクチンを元に開発された薬剤です。イベルメクチンは抗寄生虫薬であり、フィラリア感染症などの治療に使われています。

 

元は寄生虫に対する薬剤であるイベルメクチンは、以前よりHIVやデング熱ウイルスⅡ対する抗ウイルス効果があったことが知られていたようです。

 

https://www.scopus.com/record/display.uri?eid=2-s2.0-84860153620&origin=inward&txGid=9a67d0cf169f670df866ecf85c8b3801

 

HIVはウイルスの増殖のために、RNAの核内移行にimportin (IMP) α/β1という蛋白を利用しているのですが、他のRNAウイルスもこのimportin (IMP) α/β1を利用していると考えられているからです。イベルメクチンがコロナウイルス蛋白の核内移行を抑制することで作用を発揮すると考えられています。実際、タイではこのイベルメクチンをデング熱ウイルス感染者に使用する研究が進められています。ただ、血中のウイルス蛋白は減らすものの、臨床的な有用性はまだ認められていないようでした。

 

SARS-CoV はimportin (IMP) α/β1を利用している可能性が考えられており、COVID-19 のウイルスSARS-CoV-2も同様なメカニズムを有していると予想されます。この研究ではオーストラリアでのCOVID-19感染者からウイルスを分離してVero/hSLAM細胞に感染させて、イベルメクチンの抗ウイルス効果を観察しました。

その結果、細胞上清のウイルスはイベルメクチン投与に寄って93%減少、細胞内ウイルスは99.8%減少しました。48時間まででウイルスRNAは5000分の一に減少、細胞毒性も無く、新たな抗SARS-CoV-2薬として候補に躍り出てきました。

この報告はまだ in vitroの結果だけで、細胞を用いた実験結果のみとなっています。出来ればマウス感染モデルを用いたin vivoの結果もあったら最高でした。

 

しかしながら、毒性の低い薬剤で有り、これまでも抗寄生虫薬として人に投与されていた実績がありますので、新型コロナウイルス患者への投与で臨床症状の改善や、ウイルス量の減少などが確認されたら、この薬剤も一気に脚光を浴びる可能性も秘めています。ただ、有効な投与量の設定などが今後必要となってくるでしょう。

もし、アビガンもイベルメクチンも効果有りとされたら、どっちを使うかとなるのでしょうか。可能であれば、併用でしょう。難治性の感染症に対して作用機序の異なる薬剤を併用する事は非常に有用です。ただ副作用のチェックは必要になってくるでしょう。

 

 

イベルメクチンの開発ももちろん、この寄生虫の薬がウイルスの増殖を抑えると言う結果も、世界の基礎医学者が地道に研究を重ねて来た結果だと思います。私も大学にいた頃は研究を継続していましたが、段々と研究費獲得が難しくなってきていました。すると研究は常に出口の結果だけを求められてしまいます。つまり、「その研究は臨床にどう役に立つんだ?」としか問われない、そんな研究だけが求められるようになってきているのを感じました。しかし、これまでの医学の進歩の大部分は、小さな一歩一歩が積み重なってきたものです。一つ一つの研究結果を見ていると、どう使うのかわからない。一つ一つは役に立つのかわからない小さな研究に見えても、それぞれの知恵を合わせて見ると、実は大きな進歩につながっている。研究ってそんなものじゃないかなと考えます。

 

「すぐに役に立つものは、すぐに役に立たなくなる。」

 

そのとおりだと思っています。

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