カタールにおけるブースターワクチンの効果:『原発危機と東大話法』
あの震災から、そして原発事故から11年が経ちました。これを機に以前読んだ東京大学教授・安富歩先生の『原発危機と東大話法』を読み返してみました。昨年の同時期のブログにも書きましたが、原発の安全神話がどのように語られてきたのかが理解できます。著者の安富歩先生自身も東大の教授なのですが、先生はこの本の中で、「徹底的に不誠実で自己中心的でありながら、抜群のバランス感覚で人々の好印象を維持し、高速事務処理能力で不誠実さを隠蔽する」と言うことが多くの東大関係者のモットーだと考えていると述べています。この様な人は東大関係者だけではなく、いろいろなところにもいますし、そういった人が権力を持って行くことが多いと思います。なので、いわゆるその道の権威と言われる人のお話でも、鵜呑みにせず、注意深く聞く習慣を身につけたいと思います。ただ、こういった本を、同じ東大の先生が出すというところが、日本ではきちんと民主主義が機能しているのかなと思いました。
この『原発危機と東大話法』からの孫引きになりますが、世界的に有名な科学者・哲学者である武谷三男さんの発言で以下のようなものが有ります。
「原子炉は絶対安全というようなことをおっしゃっている方がどうやらいらっしゃるようです。安全ということも大変疑問で有ります。安全でないからこそ、いろいろの防御設備をして、鉄の入れ物に全体を入れてみたり、いろいろ苦心惨憺するのであります。・・・(中略)・・・絶対安全とか、また安全とかいうような言葉は言うべきではない。あくまで安全にしたい、する努力をするという態度でいつも言う必要があるのです。」
いま、オミクロン株によるパンデミックがいまだ収束に向かう様子が見られませんが、これも今のところ、世の中が安全というレベルには達していません。だからこそ、標準的な感染防御、マスク・手洗い・換気を徹底したり、またワクチン接種を推進したりして苦心惨憺しているわけですね。まん延防止等重点措置が解除されても、それは安全を意味するものではないので今後も、可能な限り安全にするという努力を続けていかなければならないでしょう。
3月9日のNEJMにカタールにおけるmRNAワクチン、ブースターワクチンの有効性データーが発表されました。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2200797?query=featured_home
この論文では、オミクロン株による流行がおこった2021年12月から2022年1月の間のファイザーもしくはモデルナ社のワクチンを接種した約220万人のデーターを解析しています。この論文では、ファイザー社のワクチンを接種した人の中で症候性感染はブースター接種者で2.4%、接種していない人で4.5%でした。ブースター接種の効果は49.4%とのことです。ただ、入院、死亡に対するブースターワクチンの効果は76.5%です。デルタ株に対する症候性感染への効果は86.1%とオミクロン株のそれに比較して高くなっています。
一方モデルナ社のワクチンは症候性感染はブースター接種者で1.0%、接種していない人で1.9%でした。ブースター接種の効果は47.3%とのことです。
LJ Abu-Raddad et al. N Engl J Med 2022.
結論として、両方のワクチン共にオミクロン株に対しての感染予防効果は、デルタ株に対するそれよりは低いが、入院や死亡を強く抑制するとしています。
データーからはこれまでの結果と大きな違いはないかもしれませんが、今できる最善のことは感染予防とブースターワクチン接種である事は間違いのないところでしょう。
『原発危機と東大話法』における、前出の武谷三男さんの放射線の許容量についての考え方は「許容量とは、安全を保証する自然科学的な概念ではなく、有意義さと有害さを比較して決まる社会的な概念であって、むしろ『がまん量』とでも呼ぶべきものである」ということです。新型コロナパンデミックによる今後の私たちの社会生活もどうなっていくか、この『がまん量』で決まっていくのでしょう。