腸内細菌と新型コロナウイルス感染重症化抑制
腸内細菌は腸管の免疫系のみならず、全身の免疫系にも大きな影響を及ぼしている事がわかっています。臨床的にも、さまざまな疾患において、腸内細菌叢の異常
が観察されろことから、病態形成とのかかわりについても注目されているのみならず、免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果も、腸内細菌の種類によって高まると言う報告も出てきています。
新型コロナウイルス感染症は5類感染症となって、全数報告は無くなりましたが、重症化する例もあるため、まだ油断はできないところです。特にこの秋からは変異株XBB1.5 に対するワクチンになる予定です。XBB1.5はこれまでの免疫を逃れる性質があるので、XBB1.5 に特化したワクチンを打っておくと安心かと思います。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0172.html
新型コロナウイルス重症化に関して、腸内細菌Collinsella 属が新型コロナ感染と重症化を予防する可能性があることが、2021年に名古屋大学から発表されています。
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2021/11/collinsellacovid-19.html
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0260451
この論文では953 人の健常者の腸内細菌叢データを用いて解析し、腸内細菌Collinsella 属の比率が低いほどCOVID-19 の死亡率が高いと報告しています。Collinsella 属は肝臓で作られる胆汁酸をウルソデオキシコール酸に変換することが知られています。ウルソデオキシコール酸は 新型コロナウイルスのアンジオテンシン変換酵素 2 (ACE2)への結合を防ぐことが報告されているため、腸内細菌の産生するウルソデオキシコール酸が、新型コロナウイルスが、その受容体へ結合することを抑制して重症化を抑制するのではと述べられています。
https://www.nature.com/articles/s41586-022-05594-0
最近は東京大学から、ウイルス感染の重症化抑制には、発熱によって活性化した腸内細菌が重要であると発表されました。
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00249.html
この研究では、体温が38℃以上になるとインフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(に対する抵抗力が上がり、その理由として体温の上昇により活性化した腸内細菌叢が、体内の二次胆汁酸=ウルソデオキシコール酸のレベルを増加させて、ウイルスの増殖およびウイルス感染による炎症反応を抑えている、としています。
この研究ではマウスも用いていますが、外気温を変える事で、体温を上昇させるとウイルス感染に抵抗力を持つと報告しています。そして外気温が低い環境だとウルソデオキシコール酸の濃度が低く、外気温36℃で飼育すると(体温は38℃になるようです)ウルソデオキシコール酸の濃度が高くなることも報告しています。
外気温変化で体温が上昇することで腸内細菌を活性化させ、ウルソデオキシコール酸を上昇させると言うのはそのまま人に当てはまるものではないかも知れませんが、研究の成果から胆汁酸受容体をターゲットとしたウイルス性肺炎の重症化を抑える新しい治療薬の開発を目指すとのことです。