インフルエンザワクチン接種の是非
今朝のNHKでワクチンを避けてきた人に対するお話が流れていました。友達のお母さんや、インターネットの情報に左右され、ワクチンは危険であると思い、子供に予防接種を受けさせていなかったと言うかたでした。その後、ワクチンの有用性に関する情報を得ることができたので、予防接種を始めたと言う事でした。
以前から、ワクチンは危険であるという情報が発信されることが有りました。ワクチンに限らず、病院で処方される薬もそうなのですが、人の体に入るもので、絶対に有害事象は起こらないと言う事は言えないでしょう。薬の添付文書を見てみればわかりますが、どの薬も非常に多くの有害事象(の可能性)が記載されています。ただ、これはその薬を使用した人が必ずその有害事象が出るという話では無く、多くの人に投与してみたとき、一定の割合で有害事象が出現したと、5%程度もしくはそれ以下の人に認められ、報告されたと言うことになります。
私は外来で薬を処方するとき、患者さんに「副作用はないですか」と聞かれる事が多いですが、その場合、副作用が無い薬は無い事を説明します。しかし、そのリスクは低く、逆に有用性が高く、現在の病態が改善する可能性が見込まれることを付け加えます。つまり、リスクとベネフィットをきちんと理解してもらうことが重要と思います。
今、インフルエンザワクチンを接種するかたが増えていますが、インフルエンザワクチンも絶対に副作用が無いというものではありません。局所反応として、注射部位の発赤、疼痛、腫脹は10~20%に起こりえますし、発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などは接種を受けた方の5~10%に起こるとされています。そしてまれにアレルギー反応、発疹、じんましん、発赤、掻痒感、呼吸困難等もおきることがあるとされています。その他、重い副反応として、ギラン・バレー症候群、急性脳症、急性散在性脳脊髄炎、けいれん、肝機能障害、喘息発作、血小板減少性紫斑病等が報告されています。また、ワクチンによる有害事象からのものと疑われる死亡例も有りますが、2017年10月~2018年4月までで3例、2016年10月~2017年4月までで2例、2015年10月~2016年4月までで1例です(厚生労働省発表)。
一方、その効果として、厚生労働省より「65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があった」と発表されています。ワクチンによって感染後の重症化や死亡を予防することに関しては、一定の効果があるとされています。これについては、以前もブログ内で紹介した論文(N Engl J Med 2001; 344:889-896)にワクチンの有用性の研究結果が詳しく述べられています。この研究は日本とアメリカでのインフルエンザワクチン接種率と肺炎とインフルエンザによる死亡率を比較検討したものです。インフルエンザ接種率を算出するのは難しいので、代わりにそれぞれの国におけるインフルエンザワクチンの出荷量で見ています。インフルエンザワクチンの出荷量はグレーの棒グラフで表されています。実線は平均死亡率です。この研究を50年にわたりデーターを解析しています。
N Engl J Med 2001; 344:889-896
このグラフ(上)から、日本のインフルエンザワクチン接種は1989年から減少し始めています。そして1994年、予防接種法が改正され、インフルエンザワクチンが任意接種となった後から激減しています。思い起こせば、私も小学生時は必ず学校でインフルエンザ予防接種をやっていたように記憶しています。やりたくないお友達は、「今日は具合が悪いです」とか「風邪ひいています」とか先生に言ったら、「風邪引かないようにやる注射だからやれ」と言われて、結局皆やらされていたなと思い出しました。
しかし、グラフを見てわかるように、日本ではインフルエンザワクチンが普及してから、肺炎、インフルエンザによる死亡率が減少してきているのに、ワクチン接種率(出荷数)が下がったとたん、死亡率が上昇しています。一方、米国(下)ではインフルエンザワクチン接種を推進し、出荷数は増えています。そして、肺炎、インフルエンザでの死亡率を抑制、維持しています。この論文の結果からもわかるように、やはりワクチンはインフルエンザ感染後の重症化や死亡を予防する効果があると考えて良いでしょう。
薬でもワクチンでも、リスクとベネフィットを考慮してどうするか、エビデンスのある情報を元に判断するのが良いと思います。エビデンス=根拠のあるという事ですが、それは他人から伝え聞いた話でなく、また、ネットの個人的な感想や情報でもなく、あくまでも根拠のある論文のデーターを中心とした結果から導きされた根拠をもとに判断するのが良いと思われます。今年流行が予想されているウイルス株は昨年のワクチンでは予防できない株であり、インフルエンザは感染性の強いウイルスなので、予防策をきちんととっておくのが得策のように思われます。