メニュー

HLA-A24とコロナウイルス、オミクロン株は?

[2021.12.12]

先日、池上彰さんのテレビで、新型コロナウイルスに対する免疫として、日本人は遺伝子的に遊離である面がある可能性があると説明されていました。これは先日、理化学研究所から発表された論文に基づいています。

https://www.nature.com/articles/s42003-021-02885-6.pdf

https://www.riken.jp/press/2021/20211208_1/

 

この研究は何かというと、このブログでも何度か出てきた、細胞性免疫のことです。これまでよく報道に上がっていたのはいわゆる中和抗体の話が中心でした。中和抗体の活性は研究しやすく、かつ結果もすぐ出てわかりやすいのでよく話題になっていました。ただ、抗ウイルス免疫は中和抗体による液性免疫だけではなく細胞性免疫も重要です。

理化学研究所の研究はこの細胞性免疫にスポットを当ててのものです。

 

ウイルスに対する細胞性免疫とは、簡単に言うとウイルス感染細胞を殺すことです。ウイルス感染細胞は、細胞内でウイルスを複製して放出するので、感染細胞を殺滅するのはウイルス量減少につながることは明らかです。

ではどうやって、免疫細胞はウイルス感染細胞を見つけるかというと、免疫細胞は自分でない細胞、「非自己」の細胞を見つけることができます。これは、私たちの体の中の有核細胞は自分であると言う目印を細胞表面に出していて、この目印が異なると、免疫細胞が攻撃します。この目印になるのがHLAになります。HLAには様々なタイプがありますが、HLAが違う細胞だと、免疫細胞に排除されます。わかりやすい例で言えば、臓器移植です。移植前にはHLAのタイピングをしますが、HLAが合わなければ拒絶反応が起きます。なのでなるべくHLAタイプが近い人がいいのです。

そしてこのHLAと言う分子は細胞表面に出ているのですが、これはお皿のようなもので、自分の細胞内で合成した蛋白の一部をお皿の上に乗せて細胞表面に出てきます。このお皿にのっているのがウイルス蛋白の一部であった場合、免疫細胞は「非自己」の細胞として攻撃するのです。HLAが違う「非自己」だと認識されてしまうのです。

 

今回理化学研究所の報告ではHLAのうちHLA-A24:02 についての報告です。

このHLAは移植の時にはHLA-A、B、CやDR、DP、DQなどが移植の時に検査されますが、今回はそのうちHLA-A24:02についての研究です。なぜならこのHLA-A24 は日本人が持っている割合が一番多いからとなります。

HLA-A24:02のある割合は36.09%となっています。

https://hla.or.jp/about/hla/

36%って書かれると低く感じますが、染色体は父からと母から一本ずつもらっていますので、どちらか一方にでもHLA-A24:02を持っている確率は72%となりますか。

なので、日本人にかなり多い遺伝子型となります。

 

このHLA-A24:02が、新型コロナウイルスのスパイク蛋白の一部を先ほど説明しましたようにお皿の上にのせるのですが、問題はこのHLAのタイプによって、ちゃんとスパイク蛋白の一部を認識して乗せてくれるかという問題も出てきますし、また免疫細胞がうまく認識してくれるかと言う問題も出てきます。

今回の研究はHLA-A24:02が認識するスパイク蛋白の部分を同定し、さらにこの部分がこれまでの風邪の原因ウイルスであった、新型でなく、いわゆるコロナウイルスの同じ部分との相同性が高く、これまでこれらのウイルスで風邪を引いた人にとっては、同じような細胞性免疫を持っていると考えられ、交差反応を示す、健常人に存在する季節性コロナウイルスに対する記憶免疫キラーT細胞が(至適条件下で)SARS-CoV-2に反応し得ると言うことを発表しました。

 

この研究では、MHC 4.0. というソフトで、HLA-A24:02に乗りやすいペプチドを予想し、ペプチドを合成しています。研究で選択されたのは“QYIKWPWYI”というアミノ酸配列で、スパイク蛋白のだいぶ後ろの方です。アミノ酸としては1208番目からですね。下のHPのCDSという項目 translationのところ、下から2行目、左から4番目にその配列があるようです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_045512.2?report=genbank&from=21563&to=25384

 

さて、オミクロン株について、現在変異がおおく報告されていますが、2021年12月6日時点でGISAIDに登録されているオミクロン株525件の50%以上で認める変異や欠損はA67V、del60/70、T95I、G142D、del143/145、N21I、del212/212、G339D、 S371L、S373P、S375F、S477N、T478K、E484A、Q493R、G496S、Q498R、N501Y、Y505H、T547K、 D614G、H655Y、N679K、P681H、N764K、D796Y、N856K、Q954H、N969K、L981Fです。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10817-cepr-b11529-3.html

 

つまり、1208番目に変異が入っていないので、HLA-A24:02に普通に乗せることができる=感染細胞が「非自己」の細胞として認識されるようになっている=細胞性免疫がワクチンで誘導され、オミクロン株にも反応する、という可能性が高いと考えられます。

以前のブログ「ウイルス免疫を『鬼滅の刃』に当てはめて説明してみた!」で書いたところの「鬼のにおい」を出すようになると言うことです。

 

オミクロン株は変異が多く中和抗体の効果が減少する可能性はありますが、細胞性免疫に関係するところの変異がなければ、細胞性免疫には影響なく、重症化は抑制されるということが予想されます。逆にここが変異してしまうと、感染細胞は「鬼のにおい」を出しにくくなってしまう様なことも考え得るかもしれません。まあ、HLA-A24:02を持っている人についてはですが。

ただ、HLAにのるペプチドは、ここだけではないと考えられます。さらなる研究が進められることでしょう。ウイルス学のこういうところが面白くて、大学ではウイルス研究に打ち込んでいた時期もありました。今後どんな論文が出てくるか、楽しみです。

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME