「梅毒について」 福島県病院薬剤師会 会津支部 学術講演会
今日は慢性前立腺炎の治療薬のセルニルトンでおなじみの扶桑薬品工業株式会からのご依頼で、オンラインですが、福島県病院薬剤師会会津支部学術講演会において「梅毒について」という演題でお話しました。5月にも郡山市の医師会で講30分の講演を行いましたが、今回はその倍以上の時間でと言うことでしたので、スライドを増やして行いました。とは言え、梅毒について全般的なお話をするのに、もとより30分ではかなりきついので、今回少し長めの時間をいただいてよかったと思います。
今回は福島県の会津支部での講演会でしたが、R4年の福島県感染症発生動向調査事業報告書によれば、実際会津における梅毒の感染者数は郡山市に比較するとだいぶ少なくなっています。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/560941.pdf
今回は薬剤師会の講演でしたので、前回の郡山医師会での講演より薬剤治療の項目を少し詳しく話すこととしました。
梅毒の治療の基本はペニシリンです。現時点でペニシリン耐性の梅毒トレポネーマは認めていませんので、梅毒と診断したらまずはペニシリンの投与を考えます。
日本性感染症学会では
第1選択A:アモキシシリン500mg 1日3回 内服 4週間
第1選択B:ベンジルペニシリンベンザチン筋注 1回240万単位
となっています。第一選択として経口と注射製剤の併記となってます。
日本では長らくベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤は使用できませんでしたが、2021年より使用可能となりました。米国を始めベンジルペニシリンベンザチン筋注は世界のガイドラインで第一選択になっています。早期梅毒であれば240万単位を単回,後期梅毒であれば240万単位を週に1回,合計3回投与します。
一般的に梅毒トレポネーマを殺すのに必要な濃度は>0.018mg/L、できれば>0.36mg/L必要とされています。
これは既に過去の研究で、アモキシシリン250mgを6時間ごとに4週間内服では全例(100%)で治療に成功しており、血中アモキシシリンは測定された全例で>0.36mg/Lを達成されていると報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/520657/
なので、内服で加療する場合も、きちんと内服したらきちんと血中濃度が確保され、ちゃんと治るということが言えます。
一方、ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤ステルイズは溶解性が低く、筋注部位から緩徐に放出され、PCGに加水分解されて吸収されるため、血中濃度が長時間持続し、単回投与で最大21日間T. pallidumを殺菌可能な血中濃度を達成できます。単回投与なので、「一発で治る」と考える人もいるようですが、単にゆっくり放出されて3週間効いているというイメージです。
ただ、ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤ステルイズは神経梅毒には使用できません。神経梅毒の場合ペニシリンGの点滴治療が一般的ですが、プロベネシド併用のアモキシシリン内服効果があるようです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23104754/
ペニシリンの注意点としてはアレルギーでしょう。特に摂取7~10日にはⅣ型アレルギーからの発疹が出ることがあります。この場合内服薬であれば、内服を中止することができますが、筋注製剤だと、それはできないところが不利な添加と思われます。ただ内服薬だとあり得る、飲み忘れなどの心配が無いところが利点になります。
経口薬と筋注製剤、それぞれに利点と欠点が有りますが、どちらも梅毒治療には非常に有用なのでどちらでもいいのでうまく使い分けながら治療して行くのが重要となります。